琥珀色の戯言

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【読書感想】世界を動かす巨人たち <経済人編> ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
池上彰が、歴史を動かす「個人」から現代世界を読み解く人気シリーズ、第2弾!


この11人こそが、真の「実力者」だ!
アマゾン、グーグル、マイクロソフトフェイスブック、アリババ、等々―――。
世界を激変させた創業者たちは、どんな人物で、いったい何を考えているのか?


時に、政治権力者以上の、底知れぬ実力を発揮する大富豪たち。
だが、かれらの来歴や人となりは、よく知られていない。
池上彰が注目するのは、次の11人である。ジャック・マー(アリババ)、ウォーレン・バフェット(大投資家)、ビル・ゲイツ(マイクロソフト)、ルパート・マードック(メディア王)、ジェフ・ベゾス(アマゾン)、ドナルド・トランプ(不動産王、米国大統領)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック)、ラリー・ペイジ&セルゲイ・ブリン(グーグル)、チャールズ・コーク&デビッド・コーク(ティーパーティー運動の黒幕)。
かれらが何者かを知らずに、国際ニュースは語れない!


 昨年(2016年)の春に、この「世界を動かす巨人たち」の<政治家編>が出ていて、僕も読みました。
 <政治家編>と銘打ってあるのだから、他のジャンルの世界を動かす巨人についての本も次々に出るのだろうな、と思っていたのですが、その後はしばらく音沙汰無し(集英社のPR雑誌『青春と読書』に連載されていたらしいです)。そして今回ようやく、<経済人編>が刊行されました。


 この11人をみてみると、『アリババ」のジャック・マー以外はアメリカで活躍している人ばかりで、やはり、世界経済の中心はアメリカなのだな、と思い知らされます。
 ビル・ゲイツのように「起業家として成功をおさめた後、慈善事業に軸足を移している」人もいれば、ルパート・マードックチャールズ・コーク&デビッド・コークのように「経済的な成功とともに、政治の世界にも深くコミットし、自分が望む方向にアメリカを動かそうとしている人」もいます。
 ウォーレン・バフェットのような「独自路線」の人もいる。


 いちばん最初のジャック・マーの項で、1995年にインターネットで「中国」を検索すると、何も情報が表示されなかった(当時の中国は、インターネットに繋がっていなかった)というような話を読むと、この20年あまりで、歴史は大きく変わってきたのだなあ、と考えずにはいられません。
 中国では、いまだにネットでの情報統制が行われているのですが、それでも、「ネットに繋がっている」のは事実ですし、アリババのような大手ショッピングサイトもあるのですから。

 1999年、マーは自分のチームを率いて杭州に戻ります。新たな起業をするにもオフィスビルと借りる資金がないため、彼のアパート「湖畔花園」の一室で仕事を始めます。こうして「アリババ」が誕生するのです。
 そもそもアリババとは、どんなものなのか。北京を去る直前、彼と部下たちは、初めて万里の長城に遊びに行きます。ここで新規事業のアイデアが閃きます。
「長城のどのレンガにも、誰々参上とか、誰々が遊びに来た、とかいった文句が書いてあって、ぼくは、これこそ中国最古の電子掲示板だと思った」「アリババは元々、要するに電子掲示板だったんだ。そこに、誰もが買いたいものや売りたいものを載っけることができるようにした。」
 なるほど、アリババは誰もが商品を売買できる電子掲示板なのですね。


 いや、「電子」掲示板じゃないだろう、とは思うのですが、観光地でのヤンキーの落書きみたいなのを見て、『アリババ』のアイデアが浮かんでくるのですから、デキる人というのは、同じものを目にしても、違う意味を見いだすものなのだなあ、と感心せずにはいられません。
 

 投資で大きな利益を出し続けながらも、自らは倹約生活を続けている「オマハの賢人」ウォーレン・バフェットのこんなエピソードも紹介されています。

 バフェットはまた、ユダヤ人差別にも立ち向かいました。反対演説をぶつのではなく、バフェット流に。
 当時のオマハの名門ゴルフクラブの「オマハ・クラブ」は保守的で、ユダヤ人の入会を認めませんでした。そこでバフェットは、ユダヤ人だけを会員とする「ハイランド・カントリークラブ」に入会を申し込みます。会員たちは当初、オマハ・クラブがユダヤ人を入会させないのだから、こちらも非ユダヤ人を入れないと言い張ります。それでもなんとか入会を果たすと、バフェットは、なんとその会員証を持ってオマハ・クラブを訪れ、友人のユダヤ人の入会を認めさせました。「ユダヤ人が排他的でなくなっているのだから、こちらもユダヤ人を受け入れるべきだ」と説得したのです。
 デモや集会だけで社会を変えることはできない。しかし、方法次第で世の中を変えることができる。これがバフェット流でした。


 「正論」からいえば、こういう「取引」のような形で相手を譲歩させるのは、正しくないのかもしれません。相手の態度がどうあれ、差別はよくないことなのだから。
 とはいえ、これが有効かつ禍根を残しにくいやり方であるというのもわかります。
 実行したのが、あのウォーレン・バフェットだからこそ、うまくいったのだとしても。


 彼ら成功者たちの話を読んでいると、形式へのこだわりのなさとチャンスであれば名門大学を中退することも厭わない行動力のすごさに圧倒されます。「うまくいかなかった人の死屍累々」という世界ではありますが。
 すごい金額を使って、政界に影響力を発揮しようとする人もいれば、慈善事業へほとんどの財産を寄付してしまう人もいる。
 自家用ジェットで世界を飛び回る人もいれば、ビル・ゲイツのように、飛行機でエコノミークラスに乗ることもある人もいるのです。
 しかし、舛添知事ではありませんが、飛行機のエコノミークラスで、隣にビル・ゲイツが座っていたら、落ち着かないだろうな……飛行機会社としては、セキュリティの問題もあるでしょうし、お願いだから、せめてビジネスクラスに乗ってほしい……というところかもしれません。
 『課長・島耕作』で、島耕作の上司の中沢さんが社長に指名されたとき、会長から高級腕時計を渡された場面を思い出します。
 こんな高いもの、私はいただけませんし、趣味でもないです、と断る中沢さんを、大泉会長が「大企業の社長ともなれば、そのくらいのものをつけていないと、かえってみんな『あの人は変人なのか?』と困惑してしまうから」と説得するんですよね。
 僕には無縁なのですが、「清貧であることが、悪目立ちしたり、パフォーマンスだと思われてしまったりする世界」もあるのでしょう。


 現アメリカ大統領、ドナルド・トランプさんは、父親が経営する会社を受け継ぎました。

 (トランプ大統領の)お父さんは、自分の後継者として長男のフレッド・ジュニアを育成しようとします。しかし、心優しい長男は、荒々しい不動産や建設業での仕事に向いておらず、父の会社を退社。航空機のパイロットに転身してしまいます。優しさゆえにストレスを溜め込みやすい彼は、次第に酒やたばこに耽溺。航空会社を解雇された後もアルコールに溺れ、43歳の若さで亡くなってしまいます。その様子を見ていたドナルドは、酒やたばこには一切手を出さないできました。


 傲岸不遜にみえるドナルド・トランプ大統領も、こういう背景を知ると、あの傲慢さは「仮面」のようなものにも感じられるのです。
 自分の「弱さ」に負けてしまったお兄さんのようになりたくない、という恐怖心のようなものが、トランプさんを動かしているのかもしれません。
 この本を読んでいると、世界の大富豪・億万長者で、「明るくて笑いが絶えない家庭」で生まれ育ってきた人というのは、ほとんどいないようにみえます。
 人間にとっての「幸福」って、いったい、何なのだろうか……


 現在の世界を代表する経済人たちの肖像をまとめて読める、現時点では、あまり類がない本だと思います。
 

fujipon.hatenadiary.com

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