琥珀色の戯言

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イッツ・オンリー・トーク

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

 文学界新人賞を受賞した、絲山秋子さんのデビュー作が文庫化。正直、僕はこの本の内容は好きになれません。
 解説を書かれている上村祐子さんも引用されているのですが、

 私は誰とでもしてしまうのだ。好き嫌いはあまり関係ない、淋しいとかじゃない、迷わない、お互いの距離を計りあって苦しいコミュニケーションをするより寝てしまったほうが自然だし楽なのだ。お酒を飲んで頃合いで『する?』と一言聞けば断る男なんて滅多なことじゃいない。だがしてしまえばそれっきりで、そうやって私の周りからは男友だちが一人ずつ姿を消していくのだった。それはパンをトーストするのと同じくらい単純なことで、理由も名前もない、のっぺらぼうのトーストは食べてしまえば実にあっけらかんと何も残らないのだ

 そんな簡単なもの、なの?とか、理想追究派ブロガーである僕としては、眉をひそめてしまうわけです。というか、僕はそんなシチュエーションになったことは人生で一度もありません。お恥ずかしい話なのですが、って、何が恥ずかしいのか、恥ずかしがるべきことなのかも、よくわかりませんけど。

 しかしながら、この作品、すごく「心に引っ掛かる」というか、僕にとっては、心の中で誰かがガラスに爪を立てて「ギィーッ、ギィーーッ」ってやっているような、そんな感覚なのです。うーん、なんだか気持ち悪いんだけど、耳をそばだてずにはいられない、というか。
 文章のテンポもすばらしいし、会話の緩急にも引き込まれます。

 この作品を読んでいると、僕ってつくづく「文学的な人間」ではないなあ、と痛感させられてしまうのですよね。不倫とか「ダメ男」とかが出てくると、「ふーん」という気分になってしまうのです。『ノルウェイの森』で言えば、僕はワタナベと同じ立場であっても、直子と寝ることはできないと思う。なんだか、そういう「自分の生き方の柔軟性の無さ」みたいなものに、妙なコンプレックスを抱いているのかもしれないなあ、とか、そんなことを読み終えてしばらく考えていました。それこそ、女の子と飲んだあとに「する?」とか聞いてみればよかったんじゃない?とかね。
 まあ、世間の人々がそんなに「自由恋愛」を謳歌しているかといえば、たぶんそうじゃないのだろうけど、僕は基本的に「ゲーム欲」とか「知識欲」みたいなものは並以上にあるかわりに、「恋愛欲」とか「性欲」とかが乏しいのではないか、という気がします。
 なんで突然こんなことを書き始めたのか僕もわからないのですが、なんだか、僕にとっては、こういうことを考えてしまう小説だったのですよ。
 これもまた、「イッツ・オンリー・トーク」(すべてはムダ話)。

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