琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

パッチギ! ☆☆☆

パッチギ! (特別価格版) [DVD]

パッチギ! (特別価格版) [DVD]

 1968年。京都にある東高校2年生松山康介は常日頃から争い事の絶えない朝鮮高校にサッカーの練習試合を申し込むことになった。しぶしぶ朝鮮高校を訪れた康介は音楽室で一人フルートを奏でる少女・キョンジャに一目惚れする。しかしあろうことかキョンジャの兄アンソンは同校の番長であった。どうしてもキョンジャと仲良くなりたい松山は朝鮮語を必死で習得すると同時に楽器店でギターを購入。キョンジャが演奏していた『イムジン河』(임진강/림진강)を覚え彼女の前で演奏することを決意するのだが・・・。

 明日から続編が公開されるということで今日テレビで放映されていたのですが、僕の感想は、「正直微妙……」というものでした。いわゆる「青春映画」として、ものすごくエネルギッシュな映像ではあったと思うのですが、その一方で、この映画で扱われているテーマの重さと出口のなさには、ちょっと辟易してしまいました。前半は、そのあまりの「暴力性」のすさまじさに引いてしまい、後半は、その「断絶」のあまりの深さに諦念ばかりが先に立って。
 確かに太平洋戦争で日本が朝鮮半島に対して行ったことを「許せない」という気持ちは理解できるのです。でも、その「恨み」が、直接は何の関わりもないに決まっているひとりの若者への疎外という形で示されると、「うーん、そうやって『過去の恨み』を延々と振りかざすひとたちと、痛みを伴ってまで仲良くする必要なんてあるのかな……」とも考えてしまうのですよね。もちろん、その時代の当事者は謝罪すべきなのかもしれないけれど、子々孫々にわたるまで、ずっとこうして責められ続けるのか?」とかね……
 たぶん、僕が高校や大学のときにこの映画を見ていたら、僕にとってなんらかの「推進力」になっていたのかもしれないな、という気はします。もしかしたら、「こんなの不良の世界の話じゃん。不良は不良同士で争ってろよ」と醒めた眼で見てしまった可能性もありますが。
 悪い映画じゃないんだけど、この映画に感情移入するには、僕はちょっと年を取りすぎたのかな。
 しかし、「プロパガンダ的」という意味では、この映画も石原慎太郎の『俺は、君のためにこそ死にに行く』もそんなに変わらないのではないかなあ。

鮨に生きる男たち ☆☆☆☆

鮨に生きる男たち (新潮文庫)

鮨に生きる男たち (新潮文庫)

すきやばし次郎」をはじめとする綺羅星の如き一流店で、今日も握りの腕を振るう男たち。今では名人とまで呼ばれる彼らも、最初は一人の若者だった。十代で修業に入り、精進を重ねて一人前となり、店を構えてなお味の奥義を極める年月。全国十七人の鮨職人の錚々たるドラマに、鮨を愛してやまないノンフィクション作家が迫る。読み応えも味わいもたっぷりの列伝。

 僕はこういう「職人」とか「専門家」の世界の本を読むのが大好きなのです。この本、書かれている早瀬圭一さんの語りっぷりがいかにも「通」っぽくて、そういう粋人の世界には縁が無い僕にとってはちょっとイヤな感じもするのですけど、それを差し引いても、ここで語られている「鮨に生きる男たち」の姿には、なんだかとても心魅かれるものがあったのです。実際は、「名店に入って、厳しい修行をして頭角を現し、独立して店を繁盛させる」という「成功への道のり」に、そんなに個人差があるわけではないんですけどね。でも、その「あらすじで言えば同じような道のり」のなかに、それぞれの名人の「人柄」とか「重視しているもの」が反映されていくわけです。
 自分の店を持ちたいという野心で突き進む人、名店の跡継ぎになれたかもしれないのに、実家の都合で田舎に帰ることを選んだ人、職人というより、実業家になってしまった人……
 「同じようなサクセスストーリー」のはずなのに、結局僕は最後まで飽きずに読むことができました。
 もちろん、「ああ、この人たちが握った鮨が食べたいなあ……」と思いながら。

 「新橋鶴八」(東京・新橋)の石丸久尊さんについての項より。

 時々、どの店でも「今日のおすすめは」などと馬鹿なことを聞く客がいる。「たかちゃん」は、そんな客を嫌う(口に出して言ったことはないが、そう思っているにちがいない、と私はみる)。仮にそんなことを言われると、
「札が下がっているものでお好きなものをおっしゃって下さい」
 必ずそう言う。実はこれも親方そっくりである。神保町の親方は、「たかちゃん」よりも20も年上なのにずっと血気盛んだったから、「おすすめは」なんて言われようものなら露骨に嫌な顔をした。「たかちゃん」と同じような言い方で「お好きなものを」と返しながら(札が下がっているものでおすすめ出来ないものなんて一つもないよ)という顔をしていた。 
(中略)

 もう一つ、今回話していて納得と思ったのは、「いいネタから使っていきます」と彼が言ったときだ。新鮮なものを置いておいても仕方がない。来たお客さんにそのとき最高のを使う。「残るときはどうせ残るのです」。そうだ、そうでなければ――。

 この強烈なこだわりと自負心!
 ほんと、こういう店のカウンターに、一度くらいは座ってみたいものです。でも僕には敷居高そうだなあ……
(ちなみに、この本で紹介されている「名店」は、夜にカウンターで「おまかせ」を頼むと一人1万〜2万円くらいの店がほとんどです)
 

アクセスカウンター