- 作者: 原宏一
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2001/01
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
「家の中に変な男が棲んでいるのよ」妻の訴えを、おれは一笑に付した。念願のマイホームに入居して二カ月、そんなバカなことがあってたまるか!長距離通勤で疲れているおれをからかわんでくれ!だが出張から帰宅したある日、おれは我が目を疑った。リビングで、妻と子が得体の知らない長髪、髭面の男と談笑しているではないか。いったい、誰なんだ、この“仙人”みたいな野郎は!?(表題作より)不況、リストラ、家庭不和…現代ニッポン人が抱える悩みを、注目の異才が風刺と諧謔で鮮やかに捌いた新奇想小説。
うーん、とりあえず一晩で読み終えてしまったので、つまらない小説ではないと思いますし、「現代社会における仕事人間と会社と家庭の歪み」みたいなものをそれなりにうまくすくい上げているとは感じました。イッセー尾形さんが高く評価しているのというのも頷けます。この小説の主人公はいずれも、イッセーさんが舞台で演じている人物と共通する「現実とのズレ」と「せつなさ」を抱えているので。
この本、書店員さんの応援でベストセラーになったそうなのですが、この本のオビに書いてある、
これを「おもしろくない。」と言うならば、もうおすすめする本はありません。(有隣堂ルミネ町田店・Sさん)
というキャッチコピー(そして、僕がこの本を購入した、博多のあ●い書店のPOP)から受けた「期待感」に比べると、「この程度の作品なのか……」というのが読み終えての率直な感想でした。さすがに「現代版『変身』っていうのはあんまりかと……この人、本当に『変身』を読んだことがあるのだろうか……
いや、この小説、現代日本に生きる僕にとっては、ある意味『変身』より、読みやすいし、面白いとは思いますよ。でも、『変身』ほどのインパクトも歴史的意義もないし、そもそも、そういう野心的な狙いのもとに書かれた作品ではないはず。
僕はこれを読みながら、「ああ、冗長な星新一だな」とずっと感じていました。ちょっと「現代的風刺」を取り入れた、冗長でオチにキレがない、星さんのショートショートを薄めて引き伸ばしたような小説です。
ただ、著者の名誉のために申し添えておきますが、こういう「奇想小説」って、星新一さんが1001篇のショートショートで、あらゆるパターンを書き尽くしてしまっているんですよね。
だから、こういう小説そのものが、ほとんど掘りつくされてしまった鉱脈みたいな状況ではあるわけです。
逆に、今から小説を書こうという人は、「星新一さんの作品からアイディアやモチーフを借りてきてアレンジする」というのは、けっこう有効な方法かもしれません。
書店員さんのオススメや書店でのPOPは、かなり重要な宣伝のためのツールになってきているのですが、それが有効な販促の手段であるということが認識されるにつれ、どんどん「売るための誇大広告」みたいなのが増えているように思います。「これを『おもしろくない。』と言うならば、もうおすすめする本はありません」って言う書店員さんには、もう、おすすめの本なんて聞く必要ないや。
『モルヒネ』の「うずくまって泣きました」も、実際に読んでみると、あの作品で「うずくまって泣ける」というのはどういう精神状態なんだ?という感じでしたし。
もちろん、「面白さ」というのは人それぞれなのですが、だからこそなおさら、「書店員さんオススメ」を安易に鵜呑みにしないほうがよさそうです。
ところで、この本、表題作で描かれている「家族が一緒に生活すること」への(とくに女性側の)こだわりは、もうかなり「古臭くて、失われた感覚」なのではないかと僕は思うんだけどなあ……