琥珀色の戯言

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思考の整理学 ☆☆☆☆

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

(筑摩書房のサイトより)

“もっと若い時に読んでいれば…”
そう思わずにはいられませんでした。何かを産み出すことに近道はありませんが、最短距離を行く指針となり得る本です(盛岡市 さわや書店)。

アイディアが軽やかに離陸し、思考がのびのびと大空を駆けるには?自らの体験に則し、独自の思考のエッセンスを明快に開陳する、恰好の入門書。

東大・京大で1番読まれた本 ※2008年大学生協調べ

というオビの言葉に惹かれて購入。最近の東大生・京大生って、どんな本を読んでいるのかな、などと思いつつ。

僕はこの本を読みながら、養老先生の『バカの壁』のことを考えずにはいられませんでした。
僕の周囲の人々は『バカの壁』を読んで、「なんでこんな当たり前のことが書いてあるだけの本が、こんなに売れているんだ?」と言っていましたし、僕も当時はそう思っていたんですよ。
しかしながら、今から考えると、多くの読者が「当たり前」だと感じるようなものの見方を、あれだけわかりやすくまとめられるというのは、すごい仕事だったのでしょう。
この『思考の整理学』、そんなにびっくりするような内容ではなくて、「夜更かしするより、早起きしたほうが効率は上がるよ」とか「同じことばかりを突き詰めようとするのではなくて、『気分転換』も大事だよ」とか、「アイディアを熟成させるためのメモの利用のしかた」というような、良く言えば実用的な、悪く言えばありきたりで即効性に乏しそうなエッセンスが詰まっています。
僕が大学生のときに読んでいたら、「もっとすぐに試験に受かるような話のほうがいいんだけどな……」と、すぐ投げ出してしまっていたかも。
いま読んでみると、そういう「思考法」が、この200ページあまりの本にまとめられていることに価値があるのでしょうし、本来の使いかたは、全体をサラッと斜め読みするのではなく、手元に置いて、ときどき読み返して刺激を受ける、というものなのだと思われます。

そして、この本の面白さというのは、「思考の整理法」だけではなくて、「思考しながら生きようとする人の、『生きかた』のコツ」がちりばめられているところにあるのではないかと僕は感じました。

 自分の考えに自信をもち、これでよいのだと自分に言いきかせるだけでは充分でない。ほかの人の考えにも、肯定的な姿勢をとるようにしなくてはならない。どんなものでもその気になって探せば、かならずいいところがある。それを称揚する。
 よくわからないときにも、ぶっつけに、
「さっぱりわかりませんね」
などと水をかけるのは禁物である。
「ずいぶん難しそうですが、でも、何だかおもしろそうではありませんか」
とやれば、同じことでも、受ける感じはまったく違ってくる。すぐれた教育者、指導者はどこかよいところを見つけて、そこへ道をつけておく。批評された側では、多少、けなされていても、ほめられたところをよりどころにして希望をつなぎとめることができる。
 全面的に否定してしまえば、やられた方ではも立ち上がる元気もなくなる。自分でダメだと言うのでさえひどい打撃である。ましてや他人からダメだときめつけられたら、目の前がまっ暗になってしまう。
 お互いに自分の過去をふりかえって、とにかくここまでやってこられたのはだれのおかげかと考えてみると、たいていは、ほめてくれた人が頭に浮ぶのである。ある老俳人は、ほめられたからこそ、ここまで進歩したとしみじみ述懐している。ほめてくれた批評によって伸びた。けなされたことからはほとんど裨益されなかったというのである。
 友には、ほめてくれる人を選ばなくてはいけないが、これがなかなか難しい。人間は、ほめるよりもけなす方がうまくできている。いわゆる頭のいい人ほど、欠点を見つけるのがうまく、長所を発見するのがへたなようである。

こういうのは、まさに慧眼ですよね。
僕も「ほかの考え」に対して、こういうふうに接するように心がけよう、と思います。

薄さのわりには、けっこう読み応えがある本ですし、30代後半の僕が読んでも、「ああ、いま読んでみて良かったな」と素直に感じる良書です。
むしろ、「大学生でこの本の価値がわかるようなヤツはすごい!」

最後に、この本のなかで外山さんが引用されていた、こんな言葉を御紹介しておきます。

 ロバート・グレイヴスというイギリスの詩人がいた。詩では食っていかれない。詩人は身すぎ世すぎの仕事をしなくてはならないけれども、あまり文学と縁のふかい職業は考えものである。出版社に勤めるのなら、編集より発送係がいい――グレイヴスはそういう詩人への忠告をしている。創作へのエネルギーはとかく代償行動で肩代わりされやすいことを見抜いた言である。

これは本当に耳が痛い……
いまは何かを書いて多くの人に読んでもらいたい、っていう欲求もブログである程度満たされるし、そのブログのエントリを書くという行為さえも、twitterで短い言葉を「つぶやく」ことによって、それなりに代償されてしまうからなあ……

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