琥珀色の戯言

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西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話 ☆☆☆☆☆


内容説明
西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話

アルコール依存症は、軽症のうちほど回復しやすい病気です。ところが病気の症状や治療について、また、重症化したときのおそろしさなど、一般的な知識や理解が十分だとは言えません。
本書は、元夫のアルコール依存症に悩んだ漫画家・西原理恵子さんと、青年期に自身が若年性アルコール依存症になった経験をもつ月乃光司さんの二人が、それぞれ家族と当事者という立場から、この病気について語りあいます。かかってからでは治療が困難なアルコール依存症について、多方面から解説した、わかりやすくためになるガイダンスです。
巻頭漫画、巻末には相談先リスト入り。

この本の第3章の月乃光司さんとの対談で、西原さんが「アルコール依存症に関する取材には、優先的に協力している」ことが明かされています。
夫・鴨志田穣さんがアルコール依存症で、家族が苦しんだこと、そして、最後には「鴨ちゃん」が、アルコール依存症を克服して、「もとの優しい夫・父親」として帰ってきたことが、西原さんの「アルコール依存症についてを、世の中に大声で語らずにはいられない気持ち」の源なのではないかと思います。

僕はアルコールはけっして嫌いではありません。
むしろ、けっこう飲めるし、基本的には好きなのだと思う。
でも、自分の親が、お酒を飲んで乱れている姿を見るのが子どもの頃大嫌いだった記憶がずっとのこっていて、「お酒を飲む」という行為そのものに、いまでも少し罪悪感があるのです。
「付き合い程度に適応できるくらい飲める身体と、飲んで自分を失うことを拒絶する心」の両方をもらったことに、僕は感謝すべきなのでしょう。

この100ページあまりの本のなかで、西原さんは、何度も「アルコール依存症患者を抱えた家族の苦しみ」そして、「アルコール依存を甘く考えてしまう、周囲と世間の誤解」について語られています。

 アルコール依存症は、自分の意志では飲酒をコントロールできなくなる病気です。つまり、本人はやめたい、飲みたくないと思っているのに、やめられなくなるところが怖いんです。
 いちばんわかりやすいたとえは、お酒を飲んでいる人が、ある日その人にだけ、お酒が覚せい剤になってしまう病気なんです、多くの人にとっては単なるお酒が、覚せい剤くらい強い依存を引き起こしてしまうという人が世の中にはいます。不幸にして覚せい剤中毒になってしまった人に、根性がないとか、なんでがまんできないのかなんて、そういう理屈は通用しない、ということをわかってほしいのです。

(中略)

 彼のお酒は、一言でいえば、いびり酒というか、ただもう、相手をがんじがらめにする酒でした。暴言をはいたり、ものを投げたり、それが何時間でも、ねちねちねちねちと続いて…。そんなふうに、家族に対しては、なじったり暴れたりするというのに、外に出たときには、ちゃんと礼儀正しくするんです。外ではお酒を飲もうが飲むまいが関係なくて、仕事先でも、ペコペコと愛想よくできますし、バーに繰り出せば、グラスを傾けて、相変わらずホステスさんにも洒落た話なんかをして、周囲を笑わせていました。
 こんな調子で、理性的でいい顔をするものだから、お酒のしわざというよりも、彼の性格に裏表があるのかと疑っていました。家では人が変わって、こんなふうになるんだと他人に話したところで、だれも信じてくれない。わたしのほうが悪口を言っていることになってしまう。

(中略)

 この病気は、つまりは家族が割に合わない病気なんです。だれかに相談するにしても、家族の悪口を第三者に話すことになってしまう。家の中のことだから、だれに助けを求めていいかわからない。家族の悪口を言って、一体それが何になるんだろうってことですよね。
 この病気でつらい思いをされた方から、手紙などが届くと、「今でも親を殺してやりたいと思っています」とか、「もう親は亡くなりましたが、墓をほじくり返してでも殺したいほど憎い」とか、「娘に漫画を見せられて、夫が病気であることは理解できましたが、それでもわたしは夫を許すことができません」など、怒りや憎しみの内容がすごく多いんです。
 とくに、お父さんやお母さんがアルコール依存症で、小さいときからひどい目にあってきた人たちの傷つき具合は、とても身につまされます。子どもが傷ついたまま大人になり、家族に対する憎しみから解放されないことほど、つらいことはないです。だからわたしは、「それは病気だったんだ、そういうお父さんやお母さんではなかったんだよ」ということを伝えてあげたいんです。

(中略)

 アルコール依存症は、精神科の扱いなんです。風邪をひけば内科、妊娠すれば産婦人科と、それぞれ専門の窓口があるように、アルコール依存症も専門医でないかぎり、的確なアドバイスは期待できません。鴨ちゃんだって、それまでに医療機関のお世話になってきてはいましたが、内科や外科にかかっているうちは、はっきり言って、お酒の問題は解決しませんでした。多くの医者はアルコール依存症について、よく知らないと思っていても間違いないでしょう。
 やっとの思いで医者を訪れても、「なんで飲むのかねぇ」とか、「奥さん、しっかり見張っていなさい」とか、的はずれもはなはだしいのは「ちょっとぐらいなら飲んでもいいでしょう」なんて言われて、家族はそのことばだけで打ちのめされ、よけいに疲れちゃうものなんです。

 このような「実際にアルコール依存症の夫とつきあってきて、西原さん自身が体験したこと」が、あるいは、月乃さんが「アルコール依存症患者としてやってきたこと」が、この本のなかには、包み隠さず書かれています。
 医者が書いた本では、患者さんのプライバシーに配慮しなければならなかったり、どうしても専門用語や抽象的な話が多くなってしまうのですが、この本は、徹頭徹尾「アルコール依存症患者の家族」にわかりやすいように、具体的に描かれているのです。
 内科医の大部分は、「自分はすぐに酒はやめられるから、入院させてほしい。入院中に酒を抜くから」というアルコール依存症の患者さんを診た経験があるはずです。
 それで、一緒についてきた家族も「本人の言うようにしてやってください」と言ってくるのです。
 僕たちが、「アルコール依存は精神科の病気で、内科に短期間入院しても、そう簡単に依存が治るわけじゃない。退院してまた飲み始めたら同じことですから、内科への入院は無意味です」と何度説明しても、「精神科に行くのは世間体が悪い」などと言って、なかなか理解してもらえません。
 結局のところ、本人も家族も「これが『依存症』という病気であること」を受け入れて、専門的な治療を受けてくれなければ、どうしようもありません。

 「酒を飲むこと」に対する世間の「ものわかりの良さ」に、僕はずっと疑問を感じています。
 飲酒しての犯罪は量刑が軽くなったり、酒の上での言動に寛大であったりするのは、はたして正しいのでしょうか?
 だって、酒は無理矢理飲ませるものでも、飲まされるものでもないはずなのに。
(しかしながら、現実には、「無理に飲ませようとする人、そういう人に飲まされてしまう人」もいるのですが……)

 これだけアルコールに関する産業が大きくなってしまうと、もうお金が絡むところでは誰も何も言えなくなってしまうのかもしれないけれど、僕は、「酒の付き合いが悪くなってきた若者たち」に、すごく納得しているんですよ。「酒を飲んで酔うこと=ストレス解消」だと思い込んでいる年配の人は多いけど、翌朝かえって疲れが残っているだけ、ってことも多いし。

 まあ、西原さんは別に「禁酒法」を日本で施行することを主張されているわけではありませんが、「お酒は怖いものだ」ということを、僕もひとりでも多くの人に知ってもらいたいと思います。
 医者の説明では伝わらないことが、この本では、たぶん、より多くの人、とくに「アルコール依存症患者の家族」に伝わってくれるはず。

 厚生労働省の全国調査によれば、現在日本における治療の必要なアルコール依存症者は推計80万人。成人男性の50人に1人(2%)、成人女性の1000人に1人(0.1%)の割合。依存症の疑いのある人は、実に440万人。平均寿命は52歳。ある専門病院の統計によると、退院患者は年平均4〜5%死亡し、10年後の生存率は約50%とのことです。主な死因は、肝硬変などの肝臓障害、急性心不全(多くは急性アルコール中毒)、脳血管障害(脳梗塞脳出血)、自殺、事故などです。

 アルコール依存症は、「どこにでもある、誰にでも起こりうる病気」なのです。

 興味を持たれた方は、ぜひ、書店でこの本を手にとってみてください。
 「心当たりがある人」だけではなく、「お酒を飲む機会がある、すべての人」にオススメしておきます。

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