琥珀色の戯言

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電子書籍の時代は本当に来るのか ☆☆☆☆


電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書)

電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書)

内容(「BOOK」データベースより)
iPadキンドルの登場により、日本でもいよいよ電子書籍の時代が始まると騒がれている。しかし、アメリカから来たこのブームはすぐにも定着するのだろうか?そのとき、紙のメディアは生き残れるのか?本書は、こうした不透明な先行きに冷静かつ確かな展望をもつために不可欠の(しかし見落とされがちな)ポイントを、グーグル、アップル、アマゾンらの最新の動向と、それに対峙する日本の出版社・新聞社の試みとを丹念に取材・分析することで、あざやかに浮き彫りにする。

僕は「電子書籍」に関する本をけっこうたくさん読んでいるのですが、この新書は「電子書籍で出版の世界も読者も変わる」という「電子書籍の素晴らしさ」を中心に描く多くの本とは違い、電子書籍の未来に一石を投じる内容でした。
もちろん、著者の歌田さんは、「電子書籍のメリット」を無視しているわけではなく、その利便性をよく理解した上で(たとえば、「参考文献」というのは、いままでの本では、よほどの専門的な必要性がある人以外にとっては、あまり意味がないものだったのですが、電子書籍のネットワークができれば、気になった参考文献や図書を、ワンクリックで参照できるようになるわけです)、「そんなに簡単に、電子図書が紙の本を駆逐することができるのだろうか?」と疑念を示されています。

そして、「電子書籍が普及しても、結局のところ、『本を読む側』はそんなに変わらない」のかもしれません。

 インプレスR&Dの「電子書籍ビジネス調査報告書」によれば、日本の電子書籍市場は、2009年度が対前年比23.7%増の574億円になったというが、そのうち89%は携帯電話向けで、大半をコミックスが占めている。それ以外も写真集が半分ぐらいと、アメリカで立ち上がり始めた電子書籍市場と異なった性格のものとなっている。パソコン向けの電子書籍は11%減と縮小さえし始めていて、市場の拡大スピードが落ちている。
 成長している携帯電話向け電子書籍にしても、増加率は前年度から2007年度にかけてが153%、2008年度が42%、2009年度が28%と伸びが止まり始めている。同報告書も、今後の成長は、スマートフォンや読書端末などの新たなプラットフォームによるものと見ている。

 日本では、電子書籍の価格を紙の本に比べて大きく下げることに出版社の同意が得られず、ダイレクトにコンテンツを購入できる通信環境も整えられなかった。そもそも日本の電子書籍は、読書家以外の人たちを対象としようとする傾向が実証実験のころからかなり一貫してあった。
 日本の読書端末のコンテンツは若者向けのものが多かった。単価が安くコンパクトなマンガや文庫などを読むためにわざわざ高額の端末を買わないだろうというのは容易に想像できる。日本で読書端末の市場を切り開こうとした人びとの話を聞いてきたのでこうしたことを書くのは残念だが、日本では、いわば失敗するべくして失敗した。ケータイ小説やコミックスの電子書籍はとりえあえず成功しているが、それは、こうしたジャンルしか成功しようがないビジネス展開をしたからともいえる。
 それに対しアマゾンは、明らかに本を大量に読む人たちに向けてキンドル電子書籍用の端末)を販売した。

(中略)

 こうした端末で読むのは若者ぐらいだろうと思うかもしれないが、キンドルをおもに購入したのはお金に余裕がある中高年齢層だったことを推定するデータも出ている。
 アマゾンのサイトには、「平均的なキンドル所有者の年齢」というフォーラム(掲示板)がある。そこに書きこんでいるキンドルの平均的なオーナーたちは自分の年齢を申告している。そのデータをもとに、オーナーの世代分布を推定した。投稿者の年齢を調べただけだから統計調査としては不十分だが、参考にはなる。
 私の見たところでは二人の人が調査をしたようで、一人は700人のメッセージ、もう一人は、70ページにもおよぶアマゾンの掲示板の1700のメッセージについて、年齢が明らかな1387の書きこみを調べたという。
 手間はかかったが、やった意味はあった。結果はあっと驚くもので、あちこちの米メディアがとりあげた。
 二人の調査結果には大きな差がないが、多く調べたほうを紹介しよう。
 世代別では、50代がもっとも多く、21.2%、次が40代で19.1%、60代も18.3%、70%近くが40歳以上だ。10歳代はわずか4.25%で、20歳代が13.3%という結果だった。

 この新書のなかで、歌田さんは、キンドル利用者が比較的高齢である理由として、「初代キンドルが399ドルと高価であったこと」「文字の小さい本が読みにくくなってきた世代が、文字の大きさを自由に変えられるキンドルに魅力を感じたこと」などを挙げておられます。
 日本の「電子書籍」は、若者向けのタイトルを充実させようとしているけれど、実際に売れているのは、あくまでも「携帯電話の画面で読みやすいようにつくられた、あるいは、一般書店では買いにくい(アダルトものなどの)商品」であって、もともと本を読まない人たちが、電子書籍化されたからといって、急に本を読むようになるわけではないのです。

 仮に、1万円の電子書籍端末があったとしても(いまの相場からすればかなり安いですが、おそらく数年のうちにこのくらいの値段になると予測されています)、いまの日本の出版業界では、「電子端末版は、せいぜい200円〜300円くらい、紙の本より安い程度」です。
 月に1冊しか本を読まない人であれば、「端末代をとりかえす」ためには、2〜3年はかかってしまいます。
 もともと本を読まない人たちが、「本を読むためだけの機械」に、そんなにお金を使ってくれるというのは、ちょっと考えにくい。
 歌田さんは、「教科書や新聞・雑誌の定期配信には可能性がある」と書かれていますし、僕もそれはメリットが大きい用途だと思いますが、電子書籍を実際に有効利用できるのは、やはり「もともと、紙の本をたくさん読んでいる人」なんですよね。
 でも、これまでの日本の「電子書籍」の市場は、そういう「お得意さま」をかえりみず、「いままで本をあまり読まなかった人たち」のほうばかりを向いていたのです。

 そもそも、ペーパーバックなどの大きくて厚手の本が多く、「文庫本」がないアメリカと日本の出版文化を比較するのはなかなか難しいところもあります。
 日本では、コンビニをはじめとして「本を売っている場所」がたくさんあるし、文庫本を1冊ポケットに入れておけば、数時間の移動くらいであれば、「本好き」は退屈することがありません。
 持っていった本が、よっぽどの「ハズレ」であれば別でしょうが。

 結局のところ、「電子書籍」というのは、「未来に遺す電子図書館」のためには必要不可欠かもしれないけれど、本当に「日常的なもの」になるかどうかというのは、まだまだ不透明なのだと僕は思います。
 これまでは、「本を読む人」と「本を読まない人」がいたのだけれど、これからは、「紙の本を読む人」「電子書籍を読む人」と「本を読まない人」に分かれるだけではないかと。

 
 この新書の後半では、「ネットは無料」という常識の揺らぎが、とりあげられています。
 「無料」が常識であった新聞社のニュースなどに、課金の動きが少しずつ出始めているのです。

 有料データベースの事業をやっている日本経済新聞の場合は、デジタル収入がもっとも多くて全体の1割ぐらいあるようだが、有料データベース収入が(ほとんど)ないほかの新聞社の収入は1%以下で、ネットの経済的貢献度はそうとうに低い。
 朝日新聞社は、au携帯向けの有料情報サービス「EZニュースEX」を月間利用料250円で始めている。1年あまりで会員数が85万人を超え、目標が200万人に達すれば年60億円の売り上げで、その一部が同社に支払われる。大手サイトにコンテンツを提供した場合には、高くても数千万円にしかならず、自社で事業をするさいにはリスクはあるが事業規模は大きくなると、朝日新聞2010年7月16日夕刊の「逆境に立ち向かう新聞」は書いていた。しかし、朝日新聞社の売り上げは3279億円なので、目標の200万人に達しても、60億円の一部が収入になる程度では売り上げの1%ぐらいにしかならない。
 いまもし印刷版をやめれば、ほとんどの新聞社の収入は、どんなに多めに見ても10分の1以下、100分の1になったとしても不思議ではない。

 この新書では、アメリカの小さなローカル新聞で、オンライン版に高額課金をはじめたところ、紙の新聞に読者が戻ってきた例も挙げられています。
 ネットは新聞社を追いつめているけれど、もし新聞というメディアが無くなってしまったら、誰がネットに信憑性の高いニュースを流すのか?
 
 僕は、こんなふうにも考えるんです。
 ネットでいろんなものが「無料」になるのは、広告のおかげ。
 でも、「広告」の力が強い巨大メディアに依存するよりは、みんなで少しずつお金を出して、なるべく広告主の色がつかないメディアを維持するべきなのではないか?

 それと、もうひとつ、いまの「基本的にWEBでの情報は無料」という時代は、本当に素晴らしいと思うんですよ。
 しかしながら、そこから逆に、「多くの人から大事な情報を隠すための有料メディア」が生まれる可能性もあるのではないかなあ。


 電子書籍というツールができても、結局それを読むのは人間だし、ネットの情報を利用するのも人間です。
 結局は、「人間が変わらないと、道具の進化だけでは、何も変わらない」のかもしれません。
 もちろん、「道具によって、否応なく変わらざるをえない面」はあるのでしょうけど。


参考リンク:「電子書籍」の時代と予想外にバカ売れした「携帯漫画」(活字中毒R。)

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