琥珀色の戯言

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韓流エンタメ 日本侵攻戦略 ☆☆☆☆


韓流エンタメ 日本侵攻戦略 (扶桑社新書)

韓流エンタメ 日本侵攻戦略 (扶桑社新書)

内容紹介
少女時代、KARAはなぜ売れた?
日本人の知らないK-POPビジネスの光と影を、関係者の証言をもとに構築

2003年、ぺ・ヨンジュン主演のドラマ『冬のソナタ』から始まった韓流ムーブメントは、2010年に少女時代やKARAなど
K‐POP勢が日本進出したことによって新章に突入した。当初はオバさんばかりだったファン層も、今では完全に様変わりし、
「韓流の聖地」と化した新大久保ではド派手なハングル文字のネオンが深夜までギラギラ光り、週末ともなると若いK‐POPファンの若い女性が
束となって道に溢れている。事実、新大久保に年間訪れる旅行者の数は東京タワーを超え、いまや第二の原宿と化しているほどだ。

一見すると華やかに見えるK‐POPムーブメントだが、実際は業界全体が不安定でトラブルの温床となっている。世界進出といえば聞こえはいいが、
単に国内市場が小さく(日本の30分の1)、海外に打って出るしかないだけという事情。「鍋根性」といわれる右へ倣えの国民性、
外貨獲得に躍起となる韓国芸能業界の思惑もあってか、デビューするグループ、楽曲は似たものばかりで多様性に乏しいともいえる。

本書では、我々日本人の知らない「韓流エンタメの真実」について、文化支援系の政府機関、韓国芸能関係者の証言をもとに、細部にまで追及し、
「なぜこんなに盛り上がってるか?」という疑問に、明確な答えを提示する。

◎本書の構成
第一章 韓流新時代の到来
第二章 韓流ビジネスの経済学
第三章 K‐POPと韓国社会
第四章 K‐POPの光と影
第五章 韓国アイドルはなぜ幸せになれないのか?


俳優の高岡蒼甫さんの「韓流批判発言」をきっかけとして、2011年8月21日には、韓流偏重・偏向報道に対するフジテレビへの抗議デモが、4000人を集めて行われました。
たしかに、歌番組ではK-POPの歌手が目立ちますし、番組表には韓国ドラマが多い印象を受けます。
フジテレビをはじめとする日本のマスメディアは、本当に政治的な意図で、「韓流推し」をやっているのだろうか?

そんなことを考えながら手にとってみたこの新書なのですが、読んでみて感じたのは、「韓国の芸能界にとって、日本という市場はまさに『生命線』であり、韓国の芸能人たちは、日本で売れるためにものすごい努力をしているのだな」ということでした。
韓国の「文化侵略」のようなイメージを持ってしまいがちだけれど、彼らは「日本のマスメディアに贔屓されて売れている」というよりは、日本という市場とそのニーズを研究して、それに合った「商品」を輸出しているだけなのかもしれません。

 韓流とは一体何なのか? なぜ韓国タレントがこんなに人気を集めているのか?


 最近、韓流の主流になっているK−POPに関しては、根底にあるのは徹底した「マーケティング」と「教育システム」、そして「グローバル戦略」である。「絶対に売れる」という勝利の方程式に沿って作り上げられたアイドル。彼ら彼女たちは、いわば「芸能サイボーグ」なのだ。

 その手法に関しては本書で詳しく解説していくが、ことグローバル戦略という点では、日本より進んでいるというのが正直なところである。
 いまや韓流カルチャーの波は、日本、中国、タイ、台湾、インドネシアなど東アジア諸国にとどまらず、中東や南米、そしてヨーロッパにも飛び火している。世界中の若者たちが、韓国のアイドルに対して「カッコいい!」「可愛い!」と熱狂している。

 僕は全く知らなかったのですが、「韓流」は、日本だけの現象ではないのです。
 
 このように、韓国タレントや韓国のテレビドラマが世界に進出していく背景のひとつに、「韓国の国内市場の小ささ」を著者は挙げています。

 POP音楽産業の市場規模を比較すると、日本の3400億円に対して韓国はわずか120億円。30分の1に過ぎない。韓国の人口は4800万人と、日本の人口・1億3000万人の3分の1なので、つまり人口に対する市場規模は10分の1となる。

 「IT先進国」である韓国では、音楽は安価でのダウンロード販売が主流となっており、CDはどんどん売れなくなってきています。
 そのうえ、日本のように大きな単独ライブが行われるようなホールもなく、また、そういうステージをお金を払って観るという文化もないそうです。


 日本も先細りになってきていて、いまの韓国は将来の日本の姿かもしれないけれど、これまで築いてきた市場の大きさのおかげで、まだ、日本のアーティストは日本国内で売れればやっていけるのです。
 それに対して、韓国アーティストは、国内での稼ぎには限界がありますから、「海外に打って出て行くしかない」。

 韓国の芸能事務所の「海外戦略」の一例として、著者は、BoAを挙げています。

 人気絶頂だったS・E・Sの(日本市場での)惨敗に頭を抱えたSMエンターテインメント(韓国の芸能事務所)のイ・スマン会長は、日本語教育の重要性を痛感する。そこで次なる一手として当時まだ小学生だったBoAをスカウトした。SMエンターテインメントは彼女に歌、ダンス、そして日本語と英語を約2年かけて徹底的にマスターさせる。さらに吉本興業やAvexと共同で日本の活動拠点・SMジャパンを設立。BoAの育成と日本進出の準備のため、実に5億円以上を投じたという。


(中略)


 BoAの日本進出で重要視されたのが、「現地化戦略」というキーワードだ。
 日本語が達者なBoAは、バラエティ番組にも出演するなど大量のメディア露出で日本における知名度を上げていく。長期間に渡って日本に住み込み、プロデューサーも作曲家もスタッフもすべて日本人で揃えた。作業も日本で行い、日本人なのか韓国人なのかさっぱりわからなくさせる。K−POPのJ−POP化と言い換えてもいいだろう。
 現地化はローカライゼーションと呼ばれ、電化製品などではグローバル戦略の際にしばしば見られる現象だ。現地の生活習慣を研究し、ニーズに最適化した商品を提供することで、競争力を高めるというわけだ。日本仕様に仕上げてきたBoAのデビューとその後の展開は、ローカライゼーションの模範的な成功例だといえる。

 ちなみに「K−POPアーティストは中国やタイなど多くのアジア諸国で人気を集めているが、韓国語ではなく現地の言葉で歌っているのは日本だけ」なのだそうです。
 韓国アーティストのダンスパフォーマンスの高さや、流暢な日本語は、涙ぐましいほどの本人たちの努力と、事務所の先行投資の賜物、ということなんですね。
 そのうえ、「日本人の好み」を徹底的に研究して、売りこんでいく。

 こういうのを読んでいると、日本人が「韓流推しは、けしからん!」なんて憤っているのは、昔のアメリカでの「日本車バッシング」と、そんなに大差無いような気がしてくるのです。
 「ブランド力を(最初は)持たざる立場」「生き延びるためには、海外市場で闘っていくしかない立場」という点では、韓国アーティストたちは、まさに「アメリカ市場における日本車」みたいなものだから。
 
 
 この新書のなかでは、「韓国文化コンテンツ輸出制作研究員」のこんな言葉が紹介されています。

 もちろん言葉の壁はあると思うんですが、『8対2の法則』は変わらない。8対2というのは、8が自国のもの、2は外国のものをチョイスするという消費傾向です。AKB48にしたって『ポニーテールとシュシュ』が100万枚、K−POPはひとつのシングルでせいぜい12万枚から13万枚。だから、そんなに恐れる必要はないんじゃないですか? AKB48はK−POPよりキャラクター性があったり素人っぽくてかわいい。今の大衆はそれを好んでいるわけですよね。その結果が100万枚。だから、いくらプロフェッショナル性を打ち出してクオリティを高めたところで、言語が通じないところではこんなものじゃないかって感じはしますけどね。

 また、秋元康さんは、2010年10月にソウルでAKB48とKARAが競演した際に

 うちのAKB48は正直なところKARAさんほど歌もダンスもうまくはないけど、うまくなろうとする成長の過程をお見せしたい。

というような趣旨の発言をされていたそうです。


 逆に考えると、日本のアイドル市場というのは、「完成されたパフォーマンスを観て、ファンが楽しむ」という一方通行のものではなく、「未完成なアイドルたちをファンが押し上げて行く」という双方向性がみられる「成熟」あるいは「多様化」したものになってきている、ということが言えるのでしょう。
 むしろ、「AKB48のようなアイドルの成長をみせるスタイル」が主流にあり、「歌やダンスを極めた正統派のパフォーマー」が手薄になっているからこそ、その空いた枠に少女時代やKARAがハマった、とも考えられます。


 この新書を読んでいると、韓国アーティストにも、「先行投資が大きすぎるため、売れても見返りが少ない契約」「過酷な労働条件」「何かが売れると、二番煎じが乱立して、すぐにマンネリ化してしまう」などの問題が山積みであることがよくわかりますし、日本文化も、自国の市場の大きさに胡坐をかいていないで、韓国の「海外への売り込みかた」を参考にすべきところもあるな、と考えさせられます。
 そして、「韓流」をそんなに特別視して、危機感を煽る必要もないと思うんですよ。
 「日本で売れるために、あんなに日本語を練習して、日本向けにローカライゼーションされているもの」を、怖がってもしょうがない。
 むしろ、コカ・コーラとか、マクドナルドのほうが、「アメリカ流を浸透させていく」という意味では、よっぽど「脅威」なのかもしれません。


 いくらマスメディアが「韓国贔屓」のように見えても、AKB48がKARAの10倍売れている国なんですよ、日本って。

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