琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

マネーボール ☆☆☆☆☆



参考リンク:『マネーボール』公式サイト

あらすじ:プロ野球選手で短気な性格のビリー・ビーンブラッド・ピット)は、アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任する。チームはワールド・チャンピオンになるには程遠い状態で、優秀な選手は雇えない貧乏球団だった。あるとき、ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)というデータ分析にたけた人物との出会いをきっかけに、「マネーボール理論」を作り上げる。しかし、「マネーボール理論」に対し選手や監督からは反発を受けてしまい……。

今年28本目の劇場鑑賞作品。
金曜日の19時からの回を観たのですが、レイトショー料金ではなかったこともあり、お客さんは僕も含めて3人だけでした。
ブラッド・ピットが出ているとはいえ、メジャーリーグもの、しかも、競技そのものではなく、GM(ゼネラル・マネージャー)を中心に描いた作品という「とっつきにくさ」はあるのでしょうね。


僕も最初は、「本当にこれ、面白いのかなあ……」と思いながら観ていましたが、133分の上映時間、全く飽きることもなく過ごすことができました。
ただし、これは「観る人を選ぶ映画」であるのもまた事実。
少なくとも野球、できればメジャーリーグに興味があることは最低条件。
そして、「特定のプロ野球チームを応援している」のであれば、さらに良し。
その応援しているチームが、「お金の無い、FAでどんどん選手が出て行くような、弱いチーム」であればベストです。


要するに、広島カープのファンである僕に、もっとも向いている映画ということなんですよね。
この映画のなかで、アスレチックスのGMビリー・ビーンは、「将来を嘱望され、ドラフト1位で指名されたにもかかわらず、メジャーリーグでは活躍できなかった選手」としての過去を持っています。
彼は、高校を卒業する際、メッツのスカウトに高額の契約金と輝かしい未来を約束され、スタンフォード大学への進学の道ではなく、野球選手となることを選んだのです。
そんなビリーは、プレイヤーからスカウトに転身し、アメリカの貧乏地方球団・アスレチックスのGMになります。
そこで彼は、ピーターという「理論家」と出会い、彼の理論にしたがって、ヤンキースレッドソックスの5分の1くらいの予算で、同じくらい勝てるチームをつくることをめざすのです。


もちろん、お金がないので、いまが旬の有名選手をかき集めることはできません。
そこで、投げ方が変則的であるとか、守備が下手だとか、素行に問題があるというような選手たちを「選球眼が良いので四球をよく選び、出塁率が高い」というような「数字」で評価して獲得していくのです。

 他のチームは選手を金で買おうとしている。でも、俺たちは、勝利を金で買うんです。

 今シーズン、アスレチックスはヤンキースと同じだけ勝ったけれど、ヤンキースは1勝あたり140万ドル。アスレチックスは、1勝あたり27万ドル。

お金がなく、地方の球団であるため、巨人や阪神へ選手が出て行くばかりのカープ
カープも、アスレチックスのような「マネーボール」を取り入れていけば、巨人や阪神や中日やソフトバンクのようにお金をかけなくても、強いチームをつくれるのではないか?と、僕はワクワクしながら、この映画を観ていました。
もちろん、ビリーのやりかたは、最初からうまくいったわけではなく、「よくこれでGMを解任されなかったなあ」と、アスレチックスのオーナーの忍耐力に感心してしまったくらいでもあったのですけど。

この映画をみていて僕が痛感したのは、「弱者には、弱者なりの戦い方がある」ということ、そして、「情報」というのは、弱者にとっては、最高の武器となりうるのだ、ということでした。
お金が乏しくても、頭を使えば、「金満球団」と互角以上に戦える。
その一方で、強者も「情報の力」を取り入れるようになれば、結局のところ、最後はお金を持っているほうが勝ってしまう、という現実もあるわけで。


ビリーが、こんな異端のやり方をはじめて、こだわり続けたのは、「自分を活かせなかった野球界への復讐」という面もあったのではないかと思います。
多くの野球界の既得権者たちが、アスレチックスのやりかたを嫌ったのは、当然のことでしょう。
「これまでの自分の、そして、野球界のやりかたを否定された」のですから。


アスレチックスの「もう後が無い選手たち」が、メジャーリーグに伝説をつくっていく姿に、僕は感動してしまいました。
ああ、カープもこうなればいいのに!


ちなみに、日本ハムファイターズは、このアスレチックスのシステムをかなり参考にしているようです。
毎年のように有力選手が抜けていきながらも上位争いをしている日本ハムというのは、たしかに、「アスレチックス的なチーム」ですよね。
巷間噂されているような、ダルビッシュ投手のメジャーリーグ移籍があれば、そのときはまさに「日本ハムのフロントの本当の力」が問われることになるでしょう。
ただ、このやりかただと「強いチーム」はできても、「選手へのファンの愛着」はわきにくいだろうとも思います。
「勝つため」だからといって、ずっと応援していた選手が、あっさり他のチームに売られていくというのは、なんだかやっぱり寂しい。
それでも、「チームが勝てばいい」のか?
じゃあ、チームって、いったい何なんだ?
それは、とても難しい問題です。


ビリーたちは、「貧乏球団が統計の力で金満球団に勝つことによって、世界の常識を変えようとした」のです。
彼らは、「負け犬からスタートした」からこそ、こんな大胆な「改革」を行うことができました。
これは、「復讐の物語」であり、それと同時に「夢を失った人間たちの、再生の物語」でもあります。


ブラッド・ピットの演技もすばらしかったというか、この映画のなかには、ブラッド・ピットは一度も出てこず、ビリー・ビーンの姿だけがありました。
こういう「ベースボール映画」をつくれるアメリカのメジャーリーグというのは、やっぱり奥が深いなあ、と思わずにはいられません。
それと同時に、「球団間の経済格差」というのは、日本だけの問題じゃないということも、あらためて考えさせられます。
昨今では、「日本球界とメジャーリーグとの経済格差」も顕在化してきていますし。


野球が好きな人、とくに、「貧乏球団」に思い入れがある人には、ぜひ観ていただきたい野球映画の傑作です。

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