琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】読書の技法 ☆☆☆☆


内容紹介
【大反響!12万部突破!『読売新聞』『週刊新潮』『週刊ダイヤモンド』等で紹介、話題の書! 】


月平均300冊。多い月は500冊以上! 佐藤流「本の読み方」を初公開!
冒頭カラーページでは、著者の仕事場や本棚の中身、本やノートの書き込みの写真も掲載!


●佐藤流「熟読」の技法―どうすれば難解な本を読みこなせるか?
・知りたい分野の本は3冊買って、まずは真ん中から読む
・本全体にシャーペンで囲みを作り、重要箇所を抜き書きした「読書ノート」をつくる
・熟読の要諦は、同じ本を3回読むこと。基本書は最低3回読む


●佐藤流「速読」の技法―どうすれば大量の本を速読できるか?
・1冊5分の「超速読」と30分の「普通の速読」を使いこなす
・「超速読」で、読むべき本の仕分けと、本全体の中で当たりをつける
・「普通の速読」は「インデックス」をつける読み方。新聞の読み方を応用する


●佐藤流「教科書や学習参考書」「小説や漫画」の実践的な読み方
・読書の要は「基礎知識」。基礎知識のない本は、速読しても指の運動にしかならない
・基礎知識を身につける最高の本は、じつは高校の教科書と学習参考書
・小説や漫画は「娯楽+代理経験+社会の縮図・人間と人間の関係の縮図」として読む


著者の読書術を初めて完全体系化!
巻末には特別付録「本書に登場する書籍リスト」付き!


 これはもう、「本気で勉強したい人のための本」だとしか言いようがありません。
 「短期間ですぐ効果が出る読書テクニック」的なものが世の中には氾濫していますし、僕も正直そんな内容を求めていたのですが、この本を読みながら、「これ、確かに実践できれば実力がつくだろうけど、普通の人間は真似できないよ……」と嘆息せざるをえませんでした。
 「学問に王道なし」だよなあ、と思い知らされます。
 まあでも、突き詰めて考えてみれば、「真似できない」というよりは、「本気で真似しようとしていない」だけなんですよね。
 巷に溢れている「効率的にみえるだけで、身につかない勉強法」の数々と比べると、ある意味「親切」ではあります。


 佐藤さんがこの本で書いているのは、「知識を採り入れる技術」だけではなくて、「自分にとっての知識を取捨選択する技術」なのです。

 数学や外国語の学習は、身体で覚えなくてはならない部分があるので、毎日10時間、集中的に学習するというような手法での学力向上には限界がある。毎日2時間の学習を1年から1年半続けるのは社会人にとって相当のコストだ。その時間、他の勉強や仕事に取り組むことによって期待される成果との機会費用について考える必要がある。
 外国語がそれほど得意でないビジネスパーソンから「ロシアで仕事をすることになるので、どうやってロシア語を勉強したらよいでしょうか」と尋ねられると、筆者は「200時間くらい集中して、日本人の先生からロシア語文法をきちんと教わることと、1500語くらいの日常生活に必要な単語を丸暗記することをおすすめします。その知識があれば、生活に困ることがありません。仕事で必要なロシア語についてはよい通訳を雇うことをすすめます。機会費用を考えた場合、これからロシア語を勉強することはすすめません。それよりも高校レベルの英語を復習するほうが役に立ちます。ロシア人もビジネスに従事する人たちは英語を解します」と助言している。正しい方法論には、捨てる技術も含まれる。

 この本を読んでいると、佐藤さんの勉強量に圧倒されまくります。
 世の中には、こんなに「勉強」している人がいるのか……と。
 僕自身も「読書好き」だったつもりなのですが、僕の読書は、あくまでも趣味の範囲でしかないことを思い知らされました。
 そして、「官僚」という人たちは、こんなに勉強しているのかと驚かされます。

 講演会の後、主にビジネスパーソンと次のようなやり取りをすることがよくある。
――佐藤さんは、月に何冊くらいの本を読みますか?


「献本が月平均100冊近くある。これは1冊の例外もなく、速読で全ページに目を通している。それから新刊本を70〜80冊、古本を120〜130冊くらい買う。これも全部読んでいる」


――信じられません。1ヵ月に300冊以上の本を読むなんてできるはずがありません。


「そうでもないと思う。ここ数か月はTPP環太平洋戦略的経済連携協定)について勉強するために、月500冊を超える本に目を通している。それに、僕が現役外交官時代、毎朝、公電(外務省で公用で使う電報)が机の上に20センチくらい積まれていた。A4判の公電用紙で800枚はある。400字詰め原稿用紙に換算すると1500枚の情報が入っていて、その中には英語やロシア語の文章もある。新書本に換算すると4〜5冊分の情報量だ。これを僕だけでなく、情報を担当する外交官はだいたい2〜3時間で処理する。そうしないと仕事をこなすことができない」


 情報を担当する外交官としての経験を3年くらい積むと、800枚程度の公電なら、ざっと目を通すもの、読まないで済ませるもの、熟読するものに30分くらいで仕分けできるようになる。

「無理無理無理無理……」
 これを読みながら、僕の心の『ニコニコ動画』が、そんなコメント弾幕で埋めつくされました。


 この本、「読書入門」なんて、なまやさしいものではありません。
「本を読むのが苦手で……なんとか好きになりたい」
「1日30分の勉強で、同僚に差をつけたい」
「どんな本を読んだら、ちょっと賢くみられますか?」
 そういう人たちは、まさに「門前払い」です。


 最低でも、「本気で勉強したいと思っていて、1日2〜3時間は勉強することをいとわない人」
「文庫本1冊くらいは、ノンストップで読み切れるくらいの読書耐性がある人」
「漠然と勉強したい、というのではなく、勉強する目的を持っている人」
 これらが、この本の想定している読者なんですよね。
 ただし、「うわー、世の中には、こんなに本を読んで勉強しているのか!」という「未知の世界を知って、驚愕する面白さ」もあります。
 僕にとってのこの本は、まさに「読書超人の『情熱大陸』」みたいなものでした。
 世の中には、本当にすごい人がいるものです。
 佐藤さんはけっして無理難題ばかりを精神論で押し付けているわけじゃなくて、「文系でも高校生レベルの数学くらいはできたほうがいいから、この参考書を使って、こんなふうに勉強したらいいよ」とか、懇切丁寧に教えてくれているんですけどね。
 もちろん、佐藤さんと全く同じことができる人はほとんどいないと思うけれど、この本のなかで、自分に必要なことを拾い上げて活かすことは十分可能だし、佐藤さんもそれは百も承知のはず。
 「自分でこれからロシア語を徹底的に勉強するよりは、仕事で必要なときには、よい通訳を雇いなさい」
 勉強し尽くした人だからこそ、「限界」も知っているのです。


 基本書の読み方や、速読のやり方(ただし、これは「速読の技術」の本ではありませんから、「ある程度本が読める人」向けです)、読書ノートのつくり方など、かなり実践的なアドバイスにあふれていますし、「高校レベルの各教科をおさらいするため」の参考書も紹介されています。
 正直、この本を読めば読むほど、「中学生、高校生のころに、ちゃんと勉強しておけばよかったなあ。教科書って、本当に大事だったんだなあ……」なんて後悔してしまうのですけど。


 あと、興味深かったのは、こんな話でした。

 イスラエルのインテリジェンス・オフィサーは、村上春樹の小説を手当たり次第に読んでいた。特に『ノルウェイの森』(上下、講談社文庫)の話が、複数の人から出た。
 主人公のワタナベよりも、寮の先輩で外交官になる永沢について、「ああいうタイプの人が日本の外務省には多いのか」と尋ねられた。どうも『ノルウェイの森』を通じて、日本の外務官僚の性格(イスラエル人から見てもかなり変わっている人が多い)について知ろうとしていたようだ。

 本には、いろんな読みかたがあるものだなあ、って。
 

 「本気で勉強したい人」あるいは、「本気で勉強している人のことを知りたい人」以外には、ちょっとおすすめしがたい内容なのですが、これを読んで、「それなら読んでみたい!」という人なら、たぶん大丈夫だと思います。
 「いま、教科書を勉強することの重要性」を知るために、中高生くらいに読んでもらいたい、と思っていたのだけれど、もし僕がその頃これを読んでいたら、「大人になってもこんなに勉強しなきゃいけないのか……」と絶望していたかもしれないなあ。

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