琥珀色の戯言

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【読書感想】abさんご ☆☆☆


abさんご

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内容紹介
史上最高齢・75歳で芥川賞を受賞した「新人女性作家」のデビュー作。蓮實重彦・東大元総長の絶賛を浴び、「早稲田文学新人賞」を受賞した表題作「abさんご」。全文横書き、かつ固有名詞を一切使わないという日本語の限界に挑んだ超実験小説ながら、その文章には、「昭和」の知的な家庭に生まれたひとりの幼な子が成長し、両親を見送るまでの美しくしなやかな物語が隠されています。ひらがなのやまと言葉を多用した文体には、著者の重ねてきた年輪と、深い国文学への造詣が詰まっています。
著者は、昭和34年に早稲田大学教育学部を卒業後、教員・校正者などとして働きながら、半世紀以上ひたむきに「文学」と向き合ってきました。昭和38年には丹羽文雄が選考委員を務める「読売短編小説賞」に入選します。本書には丹羽から「この作者には素質があるようだ」との選評を引き出した幻のデビュー作ほか2編も併録します。
しかもその部分は縦書きなので、前からも後ろからも読める「誰も見たことがない」装丁でお送りします。
はたして、著者の「50年かけた小説修行」とはどのようなものだったのでしょうか。その答えは、本書を読んだ読者にしかわかりません。文学の限りない可能性を示す、若々しく成熟した作品をお楽しみください。

文藝春秋』2013年3月号で、表題作のみ読みました。
率直に言うと、僕はこの小説の良い読者にはなれなかったなあ、という感じです。


ひらがなが多用され、かなり長めの文が連なってできた断章で、ある家庭の「昭和」が語られていくのですが、僕は途中で、投げ出したくなって仕方ありませんでした。
もしこれが「芥川賞受賞作」で、感想を書こうという意図がなければ、「何これ、まどろっこしいなあ。どうでもいいことをまわりくどく書いているだけじゃないか」と罵声を浴びせて読むのをやめていたと思います。


ある意味、これは「その人が小説に何を求めているか」のリトマス試験紙みたいなものなんじゃないかと。

 転地さきの別荘の造りは,ほかにひかえ室としてたてこんでいる小べや一つしかなく,世界でなにがおこっていようと幼児の摂食が欠かせないからはそこしかばしょがなかった. すぐそばにすわっていた客が,ひとりでおとなしくとほめ,食後の飲みものをとだいどころへ立ち,くだものをいましぼっていると告げ帰った.

この文章の独特のリズムには、けっこう「ハマる」ところはあるんです。
ついつい声に出して読みたくなるような感じ。
そして、「ひらがなを多用」しているのをみると、「ああ、一昔前のテキストサイトって、こういうのけっこうあったよなあ」なんて、ちょっと懐かしくなったりもして。


ただ、先ほどの引用部にもみられるように、「なんでもひらがなで書いている」のではなくて、著者には「計算」があって、この「横書き、ひらがな多用」を行っているんですよね。「転地」とか「摂食」とか、比較的難しい漢字が残されている一方で、「へや」「ばしょ」は、ひらがなになっています。
それを「面白い」と思ったり、詳細に分析して、読みこなしてみようという気概があれば、もっと楽しく読めるんだろうけどねえ……


「僕は何を求めて小説を読んでいるのだろう?」


芥川賞選考委員の小川洋子さんが、「選評」のなかで、こう仰っていました。

 たとえ語られる意味は平凡でも、言葉の連なり方や音の響きだけで小説は成り立ってしまうと、『abさんご』は証明している。


僕にとっては、「語られる意味が平凡」だったから、この小説を読んでいてつらかったんですよ。
人間がふだん考えていることなんて、とりとめのないことばかりで、この小説はむしろリアルな人間の思考みたいなものが描かれているのかもしれませんが(あの『ユリシーズ』のように)、僕はこの作品を読むことそのものの面白さが、よくわからなかったのです。
めんどくささばかりが、先に立ってしまって。
僕にとっての小説は「ストーリー」を追うもの、ストーリーに心を動かされるものであって、突き詰めれば「あらすじを読む○○」で事足りるのかもしれません。
「たいした内容じゃない小説なのに、こんなめんどくさい実験的な表現に付き合っているほどヒマじゃないんだよな……」
それが「実感」でした。
そりゃあ、あまりに稚拙な文章だと興醒めしますが、僕にとっての優先順位は「語られる意味」のほうが、はるかに高い。


たぶん、「作家の表現技術や言葉の端々に宿る気くばりを『読む』のが好きな人」は、この作品への興味を持てるはずです。
そういう意味では、僕は基本的に「短気」であり、「文学作品向き」ではないのでしょう。
それを思い知らされたという意味では、読んでよかったのかな。

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