琥珀色の戯言

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【読書感想】ヤバい経営学 ☆☆☆☆☆


ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実

ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実


Kindle版。僕はこちらで読みました。

ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実

ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実

内容紹介
欧州No.1ビジネススクールの人気若手教授による初の著書。世界で行われている、経営のおかしなこと、間違っていることを痛快に解き明かす。余談たっぷりで読み口は軽いものの、内容はすべてアカデミックでの知見や、豊富な企業の調査やコンサルティングの経験から得た事実に基づいて記述されている。常識を裏切る内容の数々、読み物として面白さと新しい視点の気づき・発見の多さは『ヤバい経済学』にも匹敵する。紹介するトピックは、M&A、リストラ、成果主義イノベーション、経営戦略、組織改革など。


『ヤバい経済学』という有名な本があるらしいのですが、そちらの方は未読です。
この本、「経営学」に属するさまざまな常識について、実際に検証しています。
まあなんというか、読んでいると「結局、いままでの経営学って、何だったのだろうか?」と思わずにはいられないのです。
僕は経営者でもなければ、経済にすごく興味を持っている人間でもないのですが、だからこそ、この本の内容を「人間というのは、自分で思っている以上に『常識』とか『周囲の意見』とかに影響されるものなのだな」と「一般的な人間の営みに関するもの」として読むことができるのかもしれません。
もし自分が経営者であったり、経営を学んできた人間であれば「こんなふうに著者にとって都合の良いデータばっかり集めてきて、茶化しやがって!」って憤ったような気もします。
そのくらい、「いろんな常識や思い込みを信じられなくなる本」なんですよ。
しかも、著者はそれを「経験」や「感覚」で主張しているわけではなく、さまざまな研究者が行ってきた、統計学的な検討に基づいたデータを提示しています(参考文献もまとめてありますので、疑問があれば、それにあたってみることも可能です)。

 アメリカ・アーカンソー大学にジェシカ・ノーランという研究者がいた。ジェシカはカリフォルニア州の家庭における電気やガスの節約について考えていた。どうすればもっと節約への関心を持ってくれるだろうか。その答えを探すために、節約を呼びかける4種類のチラシを住民に配ることにした。このチラシのメッセージは、次のようなものだ。


(1)節約しよう! 環境のために。
(2)節約しよう! 社会のために。
(3)節約しよう! あなたの出費も減らせるのだから。
(4)節約しよう! みんなもやっているのだから。


 どのメッセージが一番効果的だろうか。実際にチラシを配る前に、ノーランは数人の住人にインタビューを行った。フタを開けてみると、住人たちは「(4)は意味がないんじゃないの?」と言っていて、回答にはあまり差がなかった(ほとんどの人は、「環境は大事だし、社会も大事だし、自分のお金も当然大事なのはわかる。だけど、なんでみんながやっているからって、自分もやらなきゃいけないの?」といった具合にインタビューでは答えていた)。住人のみんなが言っていることは本当なのだろうか。

 ノーランさんは、実際にこの4種類のチラシを住民たちの家にランダムに配布し、その後、それぞれの家の電気メーターをこっそり調査してみたそうです。
 結果はここには書きませんが(興味がある方は、ぜひこの本を読んでみてください)、意外というか、それが人間の習性というものなのか。


 著者は、製薬会社の営業活動(MR活動)についての、こんな話も紹介しています。

 実際のところ、薬のサンプルが詰まったカバンを持つ人の数は、この10年で大幅に増えている。アメリカでは1996年から2000年の間だけで、MRはなんと4万1800人から8万3000人へと倍増している。
 しかし、このMR活動は本当に効果的なのだろうか。
 ある調査結果によれば、一つの新薬を使ってもらうまでに、製薬会社のMRは平均3回も医者を訪問している。そして、その新薬が採用されるまでに、26回分の無料サンプルを配っている。これを聞いてどう思うだろうか。お世辞にもうまく機能している、とは普通は言わないだろう。なぜ、製薬会社はこんなMR活動を続けているのだろう。まず、MR活動が本当は意味がない、という明らかな根拠は見つかっていない。残念ながらどんな研究(ほとんどは製薬企業の内部調査だが)でもだ。つまり、MR活動が時代遅れのやり方だなんて、製薬会社は100%信じることができない。彼らはMR活動を止めることで、売上を減らしてしまうのが怖い。そして普通は、製薬会社はそんなリスクを取りたくないのだ。
 金食い虫のMR活動を続けていたら、会社の利益が損なわれるじゃないか、と思う人もいるだろう。おそらく、その意見は正しい。しかし、みんなはノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが言っているプロスペクト理論を知っているだろうか。それによれば、自分だけが小さな損をするよりも、他の人と同じ失敗をして大きな損をするほうが、ずっとましだと私たちは感じるのだ。

 MR活動を受ける側からすると、正直「次から次へと宣伝に来るMRさんたちに応対するのも時間のムダ」のように感じられますし、いっそのこと、インターネットに情報を開示しておいてくれれば、こちらで判断して処方するのに、と言いたくもなるのです。
 それなりに勉強もしている優秀な人材が、医者の「出待ち」のために長時間、手持ち無沙汰で医局の外に並んでいるのをみると、なんだかなあ……って思いますし。
 でも、この「他と違うことをして、自分たちだけ小さな損をするのには耐えられない」というのは、わかるような気がするんですよね。
 わかるだけに、バカバカしいことだな、とも感じるのですけど。
 結局、こういう「宣伝費」は、薬価として上乗せされているわけですから。
 この本を読んでいると、「生き馬の目を抜くビジネスの世界!」なんて言いながらも、実際は、みんな「抜け駆け」をする勇気はなく、会社の利益よりも自分の儲けや保身を考えがちなのだな、ということがよくわかります。

 ここで企業買収に関するデータを改めて紹介したい。すでに見たことのある人もいるだろうが、まだ信じていない人も多いはずなので、ここでもう一度だけ提示する。
 株式市場で価値を生み出すかどうかという点において、70〜80%の買収は失敗に終わっている。『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』に掲載された二つの研究によると、買収を発表してから10日ほどで、平均して0.34〜1%ほど買い手企業の株価が下がってしまう。過去75年以上さかのぼって株式市場のデータを調べても、同じような結果が得られるのだ。
 もしかしたら、「たった10日の間だけじゃないか」と思う人もいるだろう。「そういう買収案件であっても、長期的には価値を生み出しているんじゃないのか?」。いやいや、答えはノーだ。『ジャーナル・オブ・ファイナンス』に掲載された研究では、企業統合が完了して5年経った後、買収を行った企業の価値は10%も失われている。
「株式市場がそもそも悲観的すぎるだけじゃないか」と言う人もいるだろう。しかし、現実は逆なのだ。50億ドル以上の案件131件を調査した結果、59%のケースで、市場全体の影響を排除したリターンは、買収発表とともに低下していた。つまり、41%の案件では株式市場は買収を好意的に見ていたとも言える。この数字は、そんなにひどいものではないだろう。しかしその後は、時間とともにどうなっていくのだろうか。
 12ヵ月経った後には、71%の案件でマイナスの結果になっている。買収発表後の市場価格が上昇した41%の案件では、これから価値も上がるだろうと楽観的に見られていた。しかし、一年経った後では、そんな楽観的だった案件のうち、55%のケースだけがプラスのリターンであった。よって、株式市場ですら本来よりもずっと楽観的であったと言える。結局、市場が初めに思っていた以上に価値を失うことのほうがずっと多いのだ。

「企業買収」の話を聞くと、買った側は景気が良いんじゃないか、この尻馬に乗ると、儲かるんじゃないか、と僕は考えてしまうのですが、現実はそんなに甘くないのです。
買った時点では、買った側はプラスになると考えているのでしょうから、この結果は「惨憺たるもの」だと言うべきでしょう。
でも、これが現実なんですね……
他の企業を買って、買った金額以上のメリットを得るとうのは、実際にはかなり難しいことなのです。


また、「経営者の能力とか先見の明」というのは、過信あるいは過大評価されやすい傾向もあるようです。

 ロンドン・ビジネススクールの元同僚で、現在トロント大学にいるオレイ・ソレンセン教授は、デビッド・ウェイグスパック教授と一緒にアメリカの映画配給会社について研究を行った。配給会社は、どんな映画が高い興行成績をあげるのかについて、ある種の先入観念を持っている。たとえば、映画に登場するスター俳優の数、俳優の過去の実績、制作チームの過去の経歴といったものが一番重要だと思っている。
 そこで、ソレンセンとウェイグスパックは斬新な分析をした。二人は、配給会社が映画に割り当てる経営資源、たとえば予算や宣伝費用、封切り日の上映スクリーン数、封切り時期(クリスマスシーズンには多くの人が映画を見に行く)について調べた。その結果は、とても面白いものだった。配給会社幹部が事前にヒットを予想した映画には、会社もより多くの経営資源を投入していた。そして、統計的に分析すると、そういう映画がヒットしたのは、経営資源を優先的に配分したことが唯一の理由だった。
 二人は、投入する経営資源による影響を統計的に取り除いていた。他の映画と同じだけの通常レベルの経営資源を投入したとしたら、幹部がヒットを予想していた映画の興行成績は、多くの場合、むしろ悪かったのだ。事前にヒットすると予想した映画が、なぜ「利益」をあげるかというと、より多くの経営資源を割り当てているからだ。

 それなりに売れそうな映画を「推して」いるという面はあるにせよ、純粋に統計学的にみれば、興行成績には「映画の内容」ではなく「宣伝」のほうが関与している、ということになるのです。
 観客側からすれば、大量の予算を投入したにもかかわらず「コケる」映画の印象が強く、「やっぱり宣伝だけじゃダメだろ」と思いがちなのですが、全体として考えると、「推した映画のほうがヒットする」ようです。
 「良い映画をつくる」ことよりも「良い映画だからと思い込んで、しっかり宣伝する」ことのほうが大事なんですね……


 それにしても、「経営」というのは難しいというか、何が正しいのだか、この本を読めば読むほど、よくわからなくなってきます。

 「フォーチュン100」は、アメリカの大企業ランキングとしてよく知られている。1966年のフォーチュン100に載っている企業のうち、2006年に何社が生き残っているか、みんなは知っているだろうか。実は、100社のうち66社はもう存在すらしていない。さらに、15社は存在しているが、上場廃止になっている。そして、そのまま残っているのはたった19社だけだ。

 これは「大企業、優良企業であっても、(場合によっては、それだからこそ)時代の変化に適応して生き残っていくことは難しい、ということを示しています。


 だいたい、「経営」に関しても、ある人は「多角経営こそがリスクの分散に役立つ」と言い、またある人は「その会社の得意とする仕事に絞ったほうが生き残れる」と言っているわけで、どっちが正しいのか、わからないんですよね。
 「正しいから成功した」のか、「成功したから、正しいということにされた」のか、検証してみると、むしろ後者の場合も多いのです。そもそも、「絶対的な正解」があれば、こんなにバタバタと会社が倒産したり、雨後のタケノコのように新しい「ビジネス論」が出てくることもないはず。
 「ビジネス論そのものがビジネスになってしまっているので、いまさら議論をやめるわけにもいかず、堂々巡りをしている」ようにすら見えるのです。
 スティーブ・ジョブズだって、アップルを追われたときにキャリアを終えていれば、「カリスマ経営者」として語り継がれることはなかったはずです。
 ジョブズの場合は、ギリギリのところでピクサーが成功してくれたおかげで、上昇気流に再び乗ることができましたが、もう少しピクサーの成功が遅れていれば、再起不能になっていた可能性も十分ありました。
 ジョブズがもっと長生きしていれば、ずっとこれまで通りの成功を収め続けられていたかどうかもわかりませんし。


 「経営学」について学びたい人にとっては、「あれもダメ、これもダメ」と言われているような気がする、経営学というものの存在意義すら疑わしくなってくる本ではないかと思います。
 これを読んでも、営業トークが上手くなるより、皮肉屋になってしまう可能性のほうが高そうですし。

 
 しかしながら、これを「経営」というものを通じてみた、人間の習性をまとめた本として読むと、すごく興味深いのです。
 「経済のことはよくわからないけれど、なんで『アベノミクス』という政策に対して、こんなにさまざまな意見が出るのだろう?」
 そんな疑問を持っている人は、この本を手にとってみることをおすすめします。