琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

堀潤さんの「問題の動画」を実際に観て、考えてみた。


参考リンク:「WEDGE9月号原発推進特集の舞台裏」について放送したら当事者に突っ込まれた堀潤さん - Togetter


この話を読んで、僕も「ああ、堀潤さんやっちまったな……」と思ったんですよ。
それこそ、「上杉隆さんの二の舞か……」とも。
でも、最近堀潤さんの『僕がメディアで伝えたいこと』という新書を読んで、堀さんのこれまでの生き方や、これからやろうとしていたことに、けっこう共感してもいたので、ちょっと気になったのです。
このまとめ記事に対する反応で、堀潤さんを嬉々としてバッシングしている人たちは、実際に堀さんの放送を観たわけではなく、twitter上での『WEDGE』の編集長とのやりとりだけで、「堀潤は捏造をしている」「ジャーナリスト失格!」と言っているように見えたので。


僕は「ネット上で、一度『悪』だと決めつけられた人(多くは他人と違う生きかたをする「出る杭」に属する人)に対して、多くの人が自分の頭で判断をせずに、他者の尻馬に乗って批判し、炎上させて快哉を叫んでいることを悲しく感じています。


だから、今回の件を他人が貼ったレッテルで判断する前に、自分で少し調べてみることにしたのです。
いや、「調べる」ってほどのこともないんですけどね。
630円払って、堀さんが『WEDGE9月号』のことを話したという動画を実際に観てみただけなので。


ちなみにこれがその番組。
ネルマエニュース24 #28
(月額630円の会員のみ視聴可能です。ちなみに視聴者数(たぶんリアルタイムでの)は1000人あまり。堀さん批判のエントリの盛況っぷりを考えると、堀さんを批判している人で、実際にこの動画を観た人の割合は、かなり少ないのではないかと思われます)


ものすごく率直に言わせてもらうと、この動画、堀さんのファン、というわけではない僕にとっては、冗長なラジオの深夜放送みたいで、聴きながら一回居眠りしました。
こういう雰囲気が好きな人もいるんだろうけどさ、もっとチャキチャキやれないのか、こっちもそんなに暇じゃないんだから……とか思いつつ、ずっと聴いていても、なかなか『WEDGE』の話は出てきません。
その話題がようやく出てきたのは、開始47分後(その話は、全部で5分くらいでした)。
もっと「糾弾ムード」なのかと思いきや、のんびりした雰囲気で、「『WEDGE』の方に今日話を訊く機会があって(たしかに、『WEDGE』の方(かた)、と言っています、放送内では)」という前置きで、その話は始まりました。
内容は、「『WEDGE』はJR東海が出している雑誌で、『WEDGE』9月号の「いまこそ、原発を再稼働すべきだ!」という特集は、JR東海の葛西会長の肝いりで決まった」というのと、「それに対して、JR東海労働組合が、『いまの時点でそういう特集をするのはあまりにもバランスを欠いている』と反発し、車両内の広告の量が減った」というものです。
それだけの内容なんです。
あと、「今年の3月くらいに『WEDGE』で自民党政権を批判する記事を書いたら、ある部分の数字が間違っているということで、圧力をかけられ、全部回収、修正させられたことがあった」という話も出てきました。


というか、「本当にそれだけ」なんですよ。
堀さんは記事の内容には言及していません。
原発に対して云々というよりは「ジャーナリズムに対する、さまざまな圧力の存在」を語っているだけです。


で、この内容、担当編集者に「JRの会長にあの特集をしろって言われたんですか?」と直接あたっても、おそらく、「何も言えない」のではないかと。
僕自身は、「ノーコメント」であっても、聞いてみるべきだったんじゃないか、とも思うのですけどね。
ただ、ここで語られているのは「記事の内容」とは関係ないことで、「記事を直接書いた人間ではなくても、『WEDGE』にある程度深く関わっている人なら、十分知り得た舞台裏の話」だと思います。


堀潤さんのtwitterに関していえば「担当者」という言葉を使ったのはたしかに「脇が甘い」感じではあり、そこで「すみません、『関係者』の誤りでした」と訂正すればよかったのではないかと思うし、「裏とり」という言葉の使い方にも問題がありました。
言葉を仕事にしている人間としては、褒められたものではないでしょう。
でも、「言葉を誤用している(たぶんわざとではなく)」=「捏造ジャーナリスト」「上杉隆と同じ!」というのはあんまりです。
堀潤さんはtwitter上での言葉の誤用については、きちんと訂正なり、謝罪すべきだと思います。
しかしながら、それ以上の「悪事」や「捏造」は、行っていません(少なくとも、いま判明しているソースに、それを証明するものはありません)。
あれこれ言い訳しちゃうから、かえってこじれちゃうタイプなんだろうな、堀潤さんって。


そもそも、「○○と同じ!」という「以前問題を起こした人と同一視させるレッテル貼り」というのは、ネット上ではよくみられる「燃料投下」の一手法なんですよね。
堀潤に騙されるな!」っていう人の「まとめ」や「コメント」だけを読んで、ソースを検証もせず、「日頃気に入らなかったヤツ」を叩く「ネットイナゴ」たち。
そのほうが、よっぽど、「捏造ジャーナリスト的」なのでは?


おかげで有料動画を観るために、630円払っちゃったよまったく……
もしかしたら、僕は「炎上マーケット」にやられちゃったのかもしれませんね。
まあ、それならそれでもしょうがない。
他人の尻馬に乗って、誰かを叩くだけの人間にならないためのコストとしては、安いものです。
(でも、本当は堀潤さんは、あの動画だけでも無料公開したら良いのではないか、とは思います。誤解を解くために)


「出る杭を打つ」のは、楽しいかもしれないけどさ、快楽のために理性を捨ててしまうのって、みなさんが大嫌いな「マスゴミ」という人たちと、同じ、あるいはそれ以下ではないのかな。


いちおう、「当事者」おふたりのtwitterをリンクしておきますね(さきほどの番組の内容については、堀さん自身もtwitterで説明されています)。
こちらが堀潤さんのtwitter
こちらが『WEDGE』の担当編集者、大江紀洋さんのtwitter

【読書感想】熱烈!カープ魂 ☆☆☆☆☆


最強バッテリーはどうつくられ、互いになにを考えていたのか。カープ黄金期を担った大野豊達川光男の名バッテリーが、今だから明かせる秘話も含め、バッテリー論、野球観、カープ愛を語り尽くす。


祝!初CS進出!


カープ黄金時代の名バッテリーであり、プライベートでの親交の深さも知られている、大野さん、達川さんの対談本です。
真面目な大野さんと、ユーモアの塊のような達川さんが、なんでこんなに仲良しなのだろう?作られた美談、みたいなもんじゃないか?
なんて思っていたのですが、この本を読んでいると、お互いへの信頼の深さが伝わってきます。
このふたりは「一緒に楽しく遊んでいた仲良し」というより、プロの世界で、お互いの存在を認め合ったパートナーなんですね。
大野さんは「かたや口が達者で、かたや口べた。タイプも性格も全然違うので、最初はウマが合うとは思えなかった」と仰っていますが、だからこそ、「プロ野球選手として生きて行く」ために、このふたりはお互いに助け合い、励まし合ってきたのだなあ、ということが伝わってくるのです。

達川光男でも、人の評価というのは面白いと思ったね。ワシは入団した頃から、「一言多いヤツじゃ」「ホントにうるさいヤツじゃ」と言われてきた。大野といっしょにいると「タツは大野より一言どころか、二言多いんじゃ」と言われたんじゃから。


大野豊島根県人はあまりしゃべらんからね(笑)。


達川:要するに、ワシは広島弁でいうところの「カバチタレ」。みんなから屁理屈や文句が多い人間だと思われとった。ところが、力をつけてレギュラーになると、「一言多い」という評価が「こいつはなにごともしっかり考え、的確な指示を出している」となり、「キョロキョロして、落ち着きがない」と言われていたのが「いつもいろんなところを観察しているし、洞察力がある」に変わった。よく言われたよ。「タッチャンはこうして話してても、ちゃんと向こうのきれいな女性を見とるのう」って(笑)。


ほんと、他人の評価なんて、こんなもの、ですよね。
達川さんといえば、あの野村克也さんを継承する「ささやき戦術」が有名なのですが、その真実についても、この対談のなかで語っておられます。

大野:達川のリードと言えば、野球ファンには「ささやき」が有名だよな。ここらでそれもしっかり話しておいたほうがいいんじゃないの(笑)。


達川:みんな、テレビや新聞がささやき、ささやきって言うけぇ、話が一人歩きしとる(笑)。これは大いなる誤解ですよ。


大野:じゃ、その誤解をとくためにも、しっかり説明せんと。


達川:簡単に言ってしまえば、ワシはほとんどささやいてなんかおらんのよ。


大野:でも、相手のバッターはそうは思ってない。


達川:ワシ自身はささやくつもりなんか、これっぽっちもないのに、ベンチからいろいろ言われるのよ。古葉さんやコーチの田中(尊/たかし)さんがしっかりピッチャーに指示を出すようにと、常々言うとったんじゃ。大野も知っとるじゃろう。中でも判で押したように言われたのが「初球に気をつけろ」。これが一番困る言葉なんよ。


大野:言われた、言われた。


達川:それをピッチャーに伝えんといけんじゃない。だから、大きな声を出して言うのよ。
「こいつ。初球から振ってくるぞ。気いつけえよ」
「ストライクゾーンを広く使っていくぞ」


大野:よく聞こえたよ(笑)。


達川:あんまり打つ気のないバッターにまで同じことを言うわけよ。そうすると、バッターは「厳しいコースに来るだろう」と思う。ところが、大野なんかがドーンと、ど真ん中にボールを放ってくるわけよ。そうすると、バッターは「このキャッチャー、ウソつきやがって」と思う。口に出して文句を言う選手もおった。


大野:逆のケースもあったな。


達川:バッターの様子から「打ってこんけぇ、初球からストライクで行くぞ。ど真ん中でいけぇ」と言うこともあったよ。そんなときに限って、ピッチャーが高めにすっぽ抜けたようなボール球を放るんじゃ。それでまたバッターは達川にだまされたと思う。


大野:ふふふっ。


達川:そういうのが、すべての始まりよ。ささやきでバッターを幻惑して、それでもって打ち取ろうなんて考えたことは一度もなかった。第一、真っすぐ放れと言って、変化球を投げさせるようなことは絶対にせんかった。


達川さんの話だけだと「本当かな?」なんて思ってしまいそうなのですが、大野さんも頷いておられるので、これが事実だったのでしょうね。
ベンチの指示を徹底するために声を出して確認していたら、バッターはかえってあれこれ考えて、幻惑されてしまった、という。
そして、ピッチャーも常に指示通りの球を投げられるわけではない。
「敬遠球を投げるのは、意外に難しい」という話も聞いたことがあります。
ああいう「外す球」は普段練習していないでしょうし。


ちなみに、この本のなかでは、神宮球場で、大杉勝男さんにホームランを打たれたあと、大杉さんが達川さんの頭をゲンコツで小突く真似をした「石ころ事件」の真相についても語られています。
それにしても、この本のなかでふたりが語られている、「伝説の選手たち」のエピソードはすごいものばかりです。
落合選手との対戦は「プロの勝負とは、こういうものなのか」とワクワクしてしまいます。
野球選手というのは、言葉ではなく、ボールを通じて、ここまで「対話」しているのです。

達川:大野との勝負は、落合さんも楽しんでいたと思うよ。それは間違いない。


大野:その理由の一つはオレのコントロールを信頼してくれてたからだよね。インサイドを攻めても、当てられるという恐怖感はなかったと思う。


達川:大野は絶対にインサイドの高めに危険なボールを投げてこない、そういう気持ちでバッターボックスに立ってたと、落合さんはいまだに言うとるよ。

そして、達川さん引退のときの秘話には、読んでいて目頭が熱くなってしまいました。
引退発表の直前まで、達川さんは現役続行の腹づもりで、大野さんにもそう話していたそうです。
ところが、フロントとの話し合いのなかで、引退を決断することになり……
大野さんは、親友が突然翻意して、自分にも知らせずに引退発表したことに、かなり立腹していたそうです。

達川:あの日、ブルペンに謝りに行ったんじゃよね。「大野、悪いのう」って。そしたら、最初は「知るか」とそっけなかった。でも、帰ろうとしたら、「いっしょにリリーフカー乗って行くか」と言われ……、「じゃ、乗っていくわ」と。


大野:決まった以上、しょうがないじゃない。同じ時間、同じ空間で最後までいっしょに野球ができたのはよかったよ。


達川:リリーフカーに乗って、半分泣いていたら、「まだ終わってないぞ」と叱られた。「ちゃんとサイン出せよ。こっちはあんまり調子がよくないから。頼むぞ」って。大野は最後までやさしかったけぇ。


僕もあの試合、ふたりがリリーフカーに乗って出てきたのをみて、じーんとしてしまったのを思いだします。
ふたりの関係を知っているカープファンは、みんなそうだったんじゃないかな。


達川さん絡みの「対談本」だと、「笑い」に溢れた内容ではないかと予想していたのですが、この本、ふたりの共通の話題である「野球」そして「カープ」について、すごく深みのある話が繰り広げられているのです。
カープの選手のなかでも、エース・北別府学の信じられないようなコントロールの良さとブルペンでのこだわりとか、故・津田恒実投手の「アツさ」とか。
ふたりが「カープで野球ができてよかった」と言ってくれていることに、年俸とか人気とかで、「巨人とか阪神に入っていれば……って思っているのでは」と不安になりがちなカープファンとしては、ホッとしましたし。
カープファンはもちろんなのですが、野球ファン、そして、実際に野球をやっている人、上のレベルでのプレーを目指している人にも、参考になると思います。
ふたりの現役時代を知るカープファンは、マストですよこれ。

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