琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】働き方革命 ☆☆☆☆


働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
残業・休日出勤して、人生を会社に捧げる時代は過ぎ去った。長時間働いても、生産性が高くなければ意味がない。誰よりも「働きマン」だった著者がどのように変わったか、そして仕事と共に家庭や社会にも貢献する新しいタイプの日本人像を示す。衰えゆく日本を変えるには、何よりも私たちの「働き方」を変えることが、最も早道だ。なぜか?その答えは本書の中にある。


社畜からの脱出」を訴える本は、けっこうたくさん出ています。
みんな、残業なんかしないで、定時に帰ろう!ワークライフバランスを重視しよう!って。
ただ、僕はそういう言説に対して、しっくりこないものを感じていたのです。
もちろん「上司が帰らないから」というような無意味な残業は誰にとってもプラスにならないだろうけど、仕事を共有しているグループで、誰かが「とにかく定時に帰る」ことを実行すれば、そのしわ寄せが他の同僚に行くだけではないのか、と。


この『働き方革命』、タイトルを見たときには、「ああ、そういう『周囲に流されずに、定時に帰れ本』なんだろうな」と思ったんですよ。
でも、読んでみたら、そうじゃなかった。
これ、5年も前に新書(紙)では、出ていたんですね。
この本では、僕の疑問に、著者がかなりクリアに答えてくれているのです。


著者は、自分自身が「ワーカホリック」だったことを告白しています。

 偉そうに日本人の働き方に関する政府関連会議に出席している割に、正直僕自身は「定時」というものを体験したことがなかった。更に言うと、まともな会社勤めの経験さえなかった。
 僕は大学3年生から学生ITベンチャーの経営を始めた。企業のウェブページやその後ろにあるシステムから始まって、ユビキタス環境を支えるための専門的なソフトウェアの開発を行った。朝は大学、昼すぎからオフィスとして使っていた駅前のマンションの一室に「出勤」し、「力尽きるまで」働いて帰宅する。定時なんていう概念は存在しない。やれるだけやるし、やれなくても納期が迫っていたら、やる。布団が常備され、椅子と壁の間に敷いて、寝る。マンションをオフィスにしているとシャワーがあるので宿泊が可能になる。そういったわけで、半ばオフィスの「住人」と化しながら、仕事をする。仕事は生活であり、生活は仕事であった。
 そうしたフルコミットのかいもあり、学生数人の企業は多くのメディアにも取り上げてもらい、また数千万の売上も出すことができた。
 その後とあることがきっかけて僕はITベンチャー経営者を辞めて、NPOを起業するために、フリーターになる。


 NPO起業後も、凄まじい働きっぷり。
 1時間にメール40件を処理するのが標準、なんていうのを読むと、同じ人間とは思えん……と圧倒されてしまいます。
 そんな著者が、「働き方」「時間の使い方」についてあらためて考えるきっかけになったのは、大学時代の同級生や、起業の際にお世話になった人が、鬱で休職してしまったことでした。
 著者自身も、いつのまにか、仕事と時間に追いまくられ、表情を失ってしまっていたそうです。


 そこで著者は、一念発起して、「定時に帰る生活」をはじめようとします。
 最初は、かなり違和感や後ろめたさがありました。
 自分でそう決めたところで、仕事の量が急に減るわけでもありませんしね。
 著者は、それを乗り越えるために、「あらためて仕事を見直し、効率化していく」ことによって、時間を効率的に使おうとしていくのです。


 以下はその一例。

・メール処理迅速化
 僕が中毒だったメール処理も、9時6時で帰らないといけなくなると、何時間も割いてはいられなくなる。かといってメールを見ないだけだと、コミュニケーションを阻害してしまうことになる。そこで、「社内メールルール」と作ることにした。
 メールを開けた瞬間、それがどのような意図を持つものなのか、明示することにしたのだ。例えば、

 駒崎代表
 堀江です。Aプロジェクトの件ですが、先方からの連絡がなくて、滞っています。
 こちらから改めて連絡した方が良いでしょうか?
 ただ、まだ2日しかたっていないので、せかすと印象が悪くなってしまうような
 気もします。
 先日もちょっとムッとされたことがあったので、決めかねています。

 というメールがあったとする。これは結局「催促するかどうか、意識決定して下さい」ということを意味していて、それ以外はさほど重要な情報ではない。しかも、いつまでに先方から連絡がないと困るのか、またこちらがいつまでに指示すれば良いのか。もよく分からない。こうした情報がよく分からないと、返信するのに無駄に考えてしまう。無駄に考えてしまうと「後で時間がある時に考えよう」となって、そのメールは飛ばされてしまう。そして指示が出せず、トラブルに繋がり、トラブル処理に追われる、というようなことになる。
 そこで、メールの先頭に「してほしいこと」と「期限」を必ず入れるようにしたのだ。

 駒崎代表【意志決定】【0317迄】
 堀江です。Aプロジェクトの件ですが、先方からの連絡がなくて、滞っています。
 こちらから改めて連絡した方が良いでしょうか?
 ただ、まだ2日しかたっていないので、せかすと印象が悪くなってしまうような
 気もします。
 先日もちょっとムッとされたことがあったので、決めかねています。

 これだと、一行目で、「ああ3月17日までに意志決定してもらいたいんだな」と了解してメールを読むことができる。期限を明示することで緊急度も分かるし、「で、何してほしいんだろ」ということを考えなくて済む。


 この他、
【依頼】何かをしてほしい時
【要FB(フィードバック)】意見を求める時
【共有】返信はいらないが、情報共有したい時
 などのコードを定めておき、それぞれ「い」と打ったら【依頼】が出てくる等、パソコンの辞書登録を行った。
 社内でやり取りする全てのメールをコード付きにすることによって、圧倒的にメール処理の時間が早まった。それまで5分に1回メールチェックしていたのを、一日2回にスマート化することができた。メール処理にかける時間が3時間半から1時間になった。にもかかわらずコミュニケーションの滞りは全くなかった。自分のメールチェックの無意味さに、また驚愕した。


メールの処理ひとつにしても、やり方を工夫すれば、これだけ時間を浮かせることができたのです。
(もともとのんびりやっていたわけじゃなくて、1時間に40通のメールを処理していた人が、ですよ)
自分自身の効率化だけではなく、仕事のマニュアル化や、在宅勤務を採り入れるなどを行った結果、会社全体での残業を減らすこともできました。
その後に降りかかってきた危機も、仕事の効率化で「余裕」があった分だけ、ギリギリのところで乗りきれたのです。


これを読んでいると、著者ほど忙しい人でさえ、こんなに「効率化」の余地があるのだから、僕なんか、もっと工夫をすれば、自分の時間を生み出して、自分自身や周囲の人のために使えるはずだよなあ、と思えてきます。


僕が最近ずっと考えているのは、結局のところ、家で「くつろぐ」とか「リラックスする」という思考を変えないと、「ワークライフバランス」とやらをうまくコントロールしていくのは難しいな、ということなんですよ。
仕事場では、効率化のために、集中。
そして、つくった時間は、家で家族や周囲の人たちのために、積極的に活用。
人生、気を抜く時間をつくったら、そこから破綻してしまう。
お墓の中で、いくらでも休めるのだから。


……ああ、そんなのイヤだよなあ……家ではゴロゴロしたい……
でも、これがたぶん「生き残るための、唯一の道」なんだよね。


もしかしたら、こんなハードな、24時間ずっと「効率化」を意識した人生を送るより、「社畜」のほうが、ラクなのかもしれない……


いろんな考え方、受け取りかたがあるでしょうけど、こういうふうな考え方があるというのは、知っておいて損はないと思うのです。
著者ほど徹底していなくても、「効率化」できる部分って、たくさんあるはずだから。
何かを変えないと、ずっとこのまま、あるいは、もっと悪くなっていくのは、目に見えていますしね。

 僕はライフビジョンを達成するために、気づいたら彼女と多くの時間を割いて対話をしていた。それぞれどんな人生を送りたいのか。そのためにはどのような生活スタイルが望ましいのか。どういう風に時間を使っていけば良いのか。そんな風に対話を繰り返しているうちに、恋人はかけがえのないパートナーにいつの間にかなっていた。
 昔から「パートナーとなるような人と出会いたい」と思って色んな女性と付き合ってきた。しかし致命的な間違いを犯していたことに、「働き方革命」を始めた後に気づいた。パートナーというものがいて、それに出会うのではない。人はパートナーになっていくのだ。しかもそれを相手に期待するのではなく、自分が変わることで新しい関係性を創りだすことができるのだ。


「働き方革命」というのは、「いままで惰性でやってきたことを、もう一度、考え直し、生き直してみること」なのかな、と僕は思いました。
誰かに与えられるのを待ったり、環境のせいにしたりするのではなく、自分から変えられるものを変えていく。
正直、この生きかたは、キツイよなあ……とは思うのです。
ただ、会社の都合や惰性に流されてなんとなく生きていくよりも、充実感はあるんじゃないかな、たぶん。

アクセスカウンター