琥珀色の戯言

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【読書感想】ベスト珍書 ☆☆☆☆


内容紹介
年に数万の新刊が出版される日本。何とその全てをチェックしているのが ハマザキカク氏だ。今回、その氏が特に「ヤバイ」と感じた百冊を厳選。 著者すら意図しない魅力を再発見していく。怪書、エログロ、発禁本。 共通するのは「珍」というだけ。さあ、『珍書』の雄叫びを聞け!


出版社からのコメント
デスメタルな装いをまとい、突き抜けた本を生み出す社会評論社の編集者、ハマザキ カク氏。「珍書プロデューサー」として知られる氏は、まだ世にない本を生むため、 毎日のように書店や図書館をはしごし、国会図書館に通いつめ、刊行数が1年に8万を 超えるとも言われる新刊、なんとその全てをチェックしている。この『ベスト珍書』 はチェックした中で、彼が「ヤバイ」「スゴイ」と感じた本、100冊を厳選したも の。そこに"珍"に確かな目を持つ氏ならではの、鋭いレビューを展開していく。厳し いと言われる出版業界。ベストセラー偏重の姿勢に、閉塞的な空気を生み出す理由の 一つがあるのではなかろうか? あまり日が当たらない、でも強烈なインパクトを持つ 珍書にこそ、活路があるのかもしれないのに。さあ、ここに選ばれし本は『葬儀写真集』に『職務質問入門書』など、怪書にレア書、発禁本などのまさに珍書ばかり。今 こそ珍書の雄叫びを聞け!


 僕はこういう「珍しい本に関する本」が大好きなので、書店でみつけて即買いしました。
 とはいえ、内心、「もう、こういう珍しい本の情報とかって、書籍じゃなくてもネットで手に入りそうだし、この本も『と学会』の二番煎じみたいなものじゃないかな……」と思ってもいたんですよね。
 しかし、この本の「まえがき」を読んで、驚きました。

 日本では毎年本が8万冊ぐらい刊行されているのだが、実は私、毎日その新刊全部をチェックしている。それも人文書やサブカルなど、ジャンルを絞っているわけではなく、医学書から料理本、写真集まで文字通り全ての新刊を全部チェックしているのだ。
 平日の昼3時頃、図書館流通センター(TRC)という業者が入荷した新刊、大体1日平均200〜300冊がRSSフィードで一斉に配信されるのだが、その中でも特に気になった本やヘンだと思った本をツイッターで紹介している。これをやり始めてからもうかれこれ3年ぐらい経つだろうか。最近はツイッターの出版クラスターでも「珍書ウォッチャー」と思われているのか、よくその日の新刊珍書がリツイートされている。
 新刊全点チェック自体をし始めたのはもっと前で、確か2008年頃からだった。こうも長期間、珍書を定点観測していると、よほどのことがない限りは驚かなくなってきたが、それでもたまに想像を絶する珍書が刊行され、それを見る度に悔しい思いをしている。なぜならこの私も「珍書プロデューサー」だからだ。前代未聞の企画を実らせるためには、既に世の中に出ている本を大体把握しておく必要があるのだ。


 読みはじめて、著者・ハマザキカクさんの「珍しい本を見つけるための執念」を知って、ちょっと凍りついてしまいましたよ僕は。
 ネット時代とはいえ、これが著者にとっては「仕事の一環だともいえる」とはいえ、ここまでやる人がいるのか……と。
 1日200〜300冊、もちろん、本そのものを最初から最後まで読むわけではないでしょうし、「普通にベストセラーになりそうな本」などは、タイトルや概略を確認する程度にしているのでしょうけど、仕事をしながら、これを毎日チェックするというのは、「修行」だよなあ、と。
 これは、本好きというより、RPGをやるときには、完璧なマッピングをしないと気が済まない性格とか、そういうのではなかろうか。
 ちなみに、ハマザキさんがこれまで、所属先の社会評論社から出した本は、『世界飛び地大全』で、次が世界中のコーラを集めた『コーラ白書』だそうです。以後、『完全自殺マニア』(後に裁判沙汰になったとのこと)、『ゴム銃オフィシャルガイドブック』、卑猥な言葉で世界史の年号を覚える受験参考書『エロ語呂世界史年号』。
 根っから、「珍書」が好きなんだなあ、と。
 これ、絶対ベストセラーとか、狙ってないはず。
 それでも、本を出し続けられているということは読者もちゃんといるわけで、「本好き」の世界は広いよなあ、と感心してしまいます。

 そうして珍書の第1候補として浮かび上がってきた本だけでも1万冊近くになってしまったので、そこから図書館から取り寄せたり、国会図書館に毎週末通ったりして、現物を実際手に取って見たものが数千冊ほど。さらに「これは!」と思うものは、じっくり読んでみた。こうしたプロセスを経て厳選に厳選を重ねて、選び抜かれた珍書100冊がこの『ベスト珍書』に載っている。
 ただミステリーやSF、小説などの文芸書は除外している。元々作り話やフィクションが苦手なのと、書き方次第でいくらでもヘンな風に書けるものはあまり「珍」だとは思わない。それと少し関係があるが、いかにもウケ狙いのサブカル書も外した。作り手自らが「どうこれ? ヘンでしょ?」などと読み手に迫ってくるようなワザとらしいのは何だか気持ち悪い。
 他にも「と学会」とかがよく扱っているような電波系や陰謀論、宗教本、オカルト本も外した。元々有名なのが多いし、これらも「珍」とは若干ニュアンスが異なると感じている。
 それからよく古書愛好家の間では「珍書」というのは「揮毫本」や「発禁本」を意味することが多いのだが、私自身は蔵書趣味が一切なく、古いとか高い、あるいは稀少とかにもあまり関心がない。またそうした本を紹介したブックガイドは既に多く出ており、自分が語れることはない。


 僕は「ありがちな珍しい本のガイド」だと思い込んでいたのですが、この『ベスト珍書』は、このようにけっこう明確なコンセプトの元につくられているのです。
 明らかにヘンな人が書いたのではないかと思われる、ヘンな本を採り上げて面白おかしくツッコミを入れるブックガイド、ではないのです。
 

 それでも、第1章の「珍写真集」の項の最初に出てくる『DRIP BOMB』の紹介が、「アーティストブック風だが、写っているのはゲロ」だものなあ……
 こういう本が、40ページで、4000円もするのか……
 

 この本のセレクトをみると、著者は「珍書」とはいっても、「おかしな人が、突っ走ってつくってしまった本」とか「わざとキワモノを狙ったサブカル本」は選んでいないんですよね。
 作り手がちゃんとコンセプトを持っていて、しかも、出来上がった本に愛着を抱いているような本だけが、選ばれているのです。
 この「珍書」たちには「本気」のスゴさが溢れているのです。


 『日本のロープウェイ・ゴンドラ全ガイド』という本の著者は歯科医で、『TVチャンピオン』新幹線王選手権で準優勝に輝いたそうなのですが、全国で数十人しかいないという、国内全鉄道乗車を果たしています。というか、そういう人が数十人もいる、ということがすでに驚きなのですけど。

 病的ともいえるコンプリート癖を持つ著者は、それに飽き足らず鉄道事業法上では「鉄道の仲間」とされる「普通索道」、つまりゴンドラやロープウェイの制覇も達成した。それを全て紹介したのが本書。著者はスキーが苦手にもかかわらず、冬のシーズンにゴンドラに乗り込み、滑走もせず撮影する執念を見せた。周りからは不思議な目で見られたそうである。

 これを読みながら考えていたのは、こういった「珍書」たちを書いているのって、いったいどんな人たちなんだろうか、ということでした。
 写真家のような「アーティスト」が、「とにかく珍しいもの、インパクトがあるもの」を目指すのは、わからなくもないのだけれど、こういう「日頃はいち社会人として普通に生活している(であろう)人」が抱える「執念」みたいなものが、僕にはすごく気になるんですよね。
 そして、そういう本を、著者はたくさん紹介してくれています。
 それにしても、スキーが苦手なのに、わざわざスキー場に行って、ゴンドラにだけ乗って帰ってくるって、ある意味「偉業」だよなあ。
 なぜ、そんな苦行を自分に課すのだろうか……


 また『バカナ氏の碁会所巡礼』という本は、日本中の碁会所210ヵ所を、高校の教師が定年退職後に歴訪した記録なのだそうですが、著者はこの本に対して、

 中身を見てみると実に丹念に地方の碁会所まで出向いており、都心やターミナル駅ではなく、郊外の住宅地などにまで赴いて、囲碁を打っている。しかし掲載されている写真はいずれも囲碁を打っているシーンかビルの外観ばかり。どれも全く代わり映えがせず、碁会所はそもそも巡礼するようなものなのか、疑問に思えてくる……。

 という率直な感想を述べています。
 いやまあ、たしかにそうだろうな、というのと、著者も、最後のほうは、引くに引けなかったのか、それとも、「碁マニアにはわかる違い」みたいなものがあったのか……


 医学書の「珍書」も紹介されているのですが、その中に『写真と童話で訪れる 高尿酸血症と奇岩・奇石』という本があって、地味に唸ってしまいました。
 岡山の偉い先生が書かれているそうなのですが、なぜその組み合わせが、一冊にまとめられているのだろうか……
 たぶん、奇岩の話をしたくてしょうがなかったけど、それだけでは医学系の出版社側からGOサインが出ず……だったのかな。
 でも、この合わせ技だと、高尿酸血症に興味がある人も、奇岩マニアも「えっ?」って感じですよね。
 しかもこれ、シリーズ化されていて、『写真と童話で訪れる 糖尿病性腎症とナイアガラ』『写真と童話で訪れる インスリンのふるさとデンマーク』『写真と童話で訪れる アルプスと高血圧』などがあるそうです。
 メディカルレビュー社、なぜ……
 それとも、けっこう面白いのだろうか、このシリーズ。


 日本の出版文化の裾野は広いなあ!などと感心しつつ、楽しく読める新書でした。
 「珍書」好きには、たまらない一冊です。

 
 

写真と童話で訪れる高尿酸血症と奇岩・奇石

写真と童話で訪れる高尿酸血症と奇岩・奇石

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