琥珀色の戯言

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【読書感想】作家の遊び方 ☆☆☆


作家の遊び方 (双葉文庫)

作家の遊び方 (双葉文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
文章、そして生き方を通して「大人の男とはこうあるべき」を伝え続ける著者の日々を綴ったエッセイ集、待望の文庫化。麻雀、競輪などのギャンブル、ゴルフ場や酒場でのエピソード、幅広い交友関係から「粋な男の遊び方」を知ることができる。そして遊びを通して、生き方、考え方を知ることができる。「大人のための遊びの教科書」第1巻。


 「大人のための遊びの教科書」か……
 こういうのは、真似しようと思っても、なかなか真似できるようなものではないと思うのですが、伊集院さんの生きざまをみていると、大勝負した馬券が外れたら半日くらい落ち込んでしまう僕は、カッコ悪いなあ。
 いやほんと、ひとつひとつの勝ち負けに一喜一憂しない、綺麗に負けられる、という人じゃないと、ギャンブルというのは手を出さないほうがいい。
 まあ、負けてグチグチやるのも、それはそれで「しょうがないな」って言ってくれそうな気もするんですけどね、伊集院さんって。


 この本、基本的には伊集院静さんの日常エッセイなのですが、伊集院さんが日常を描くと、こんなにギャンブル(とくに競輪)の話や、人の生き死にの話が出てくるものなのですね。
 そして、「負けたときの身の処しかた」のトレーニングという意味では、ギャンブルには、たしかに「意味」があるのかもしれません。
 勝ち続けるばかりの人生なんて、ありえないのだから。

 北フランスのドーヴィルにあるカジノでのことだ。
 その女性は私の後輩の奥さんなのだが、たまたま休暇が取れて、彼女もカジノに同好した。
 もう一人、私の遊び友だちの男がいて、その男がへこみっ放しだった。
 後輩の奥さんは私の隣りで私が賭けるのを見ていた。私は少し好調だった。私は友人を見た。
「あいつかなりやられてるな。少し回してやろうか」
「何を言うてんですか。そんなもん今、ツキのないあの人にタマを回したら、こっちのツキまでおかしゅうなりますよ」
「そうかな……」
「そうに決まってますがな。ここは博打場ですよ」
 私は彼女の顔を見返した。
 ――この子感心な子やな……。
 その夜、私は寝る前に、これまでその遊び友だちの男と何度かカジノに来て、彼がへこんでいると金を回していたが、その時は最後に決って二人とも負けていたのを思い出した。
 何十年もギャンブルをやってきて、歳下の女の子から肝心なことを教わるものだと妙に感心したのを覚えている。
 こうしてわかったようなことを書いたが、銀座の或る通りにこんな伝説がある。
”競輪に勝った伊集院がすれ違う人に皆祝儀を渡し、ほんの五十メートルで×百万円ばらまいたそうだ”
 勝ったら酒は控え目に。


 『おぼっちゃまくん』かよ!
 僕もその場にいたかった……とか考えてしまうような僕は、カッコいいギャンブラーにはなれないのだろうなあ。
 

 このエッセイを読んでいると、伊集院さんの周囲の人々のカッコよさ(たぶん、身近な人にとっては、「なんで他人にそんなことしてあげないといけないの!」ってもどかしくなるようなカッコよさ、なんだけど)に、シビレてしまうんですよね。

 競輪も教えて貰ったが、一番は生きる上の肝心を教わった。
「伊集院さん、あんた少し格好が良過ぎるわ。それはあかん。世の中のほとんどの人はあんたみたいには生きられんのや。それでは寄ってくる人も寄ってきいへん。人間一人でできることなんぞたいしたことおまへんで……」
「どうすりゃいいんですか?」
「阿呆にならなあきませんわ」
「阿呆に?」
「そうでんがな。馬鹿でも間抜けでもよろしい。人に笑われるところがないとあきません」
「……」
 私はそれがどういうものかわからなかった。
 或る競輪選手の結婚式に二人で出席した時、急にスピーチを指名された。話は苦手だった。健ちゃんの顔を見た。
「笑って出て行って、阿呆してきなさい」
 そう言われて慣れぬ歌を歌って爆笑を買い、席に戻ると健ちゃんが言った。
「それでよろしい」


 僕もスピーチとか苦手だし、人前で「面白いこと」をやる才能もありません。
 でも、こういうのを読むと、やっぱり「阿呆のひとつもできる人」のほうが魅力的だよなあ、と痛感してしまうのです。
 隙というか、ツッコミどころみたいなものが、みんなとうまくやっていくためには、あったほうが良いんですよね。
 でも、そういうのって、うまくやろうと思えば思うほど、ぎこちなくなってしまうところもあり。
 伊集院さんのエッセイには、そういう「不器用でも愛される生き方」みたいなものが詰まっているような気がします。
 これ読んでいたら、(作家としての仕事の時間のことはほとんど書かれていないので)、競輪、ゴルフ、お酒と、真剣に遊んでばかりいて、羨ましいかぎり、ではあるんですけどね。
 僕は、仕事も遊びも、中途半端だよなあ。

 それにしても毎週末、競馬をやってる人は大変だろう。デッカイ見出しで、この馬が間違いなくくるぞ、なんて調子で木、金、土、日曜日に違った穴馬を紹介する。ファンはわけわからなくなるわナ。

 いやほんと、僕もそう思います。

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