琥珀色の戯言

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【読書感想】バツイチおへんろ ☆☆☆


バツイチおへんろ

バツイチおへんろ

内容(「BOOK」データベースより)
38歳、職業・稼げないフリーライター。9年連れ添ったイギリス人夫との別れ。仕事、結婚離婚、子供、将来への不安…。汗と涙の68日間お遍路旅。アラフォー女子は答えを求め、歩く、歩く、ただただ歩く。


 「お遍路もの」をけっこう読んでいるような気がするのです。
 「自分も行ってみよう」という気分にはなかなかならないのですが、そんなに仏教への信仰が篤いわけでもない人たちが、なぜこんなにきつそうな「苦行」に挑むのか、という疑問もあって。

 夕食は、刺身が入った豪華なお膳のほかにも、自家製の杏酒やいろりで焼かれた巨大なシイタケがどんどんふるまわれる大宴会。女5人は20〜40代、男チーム5人は平均年齢55歳のおっちゃんぞろいだった。おへんろ2回目、4回目の先輩もいて、寺や宿の話で盛り上がる。
「××寺は儲かり過ぎだよな。あの住職、派手に遊びまくってるんだって。だから俺、あそこで賽銭投げる時は”ハイ、住職のゴルフ代!”って言いながら投げるの」
「××寺の納経所なんて、女子高生がガムかみながら墨書してるらしいですよ」
「お礼参りって、1番寺を儲からすためのもんってきいたで」
「××番の近くに自殺の名所があるって本当なの?」
「たまに納経所で”歩きですか?”って聞いてくるとこあるだろ? で、”歩きです”って答えると”ご苦労さまです”って言われるじゃんか。でもあれって、車のおへんろさんから駐車場代を徴収するための尋問目的だって話だよ」
「おへんろの十善戒のひとつに生き物を殺さない”不殺生”ってのあるやろ? でもね、××寺の納経所、あそこにゴキブリホイホイあるから!」
 ゴシップってどうしてこんなに盛り上がるんだろう。そしてこんなにおへんろさんがのびのびしているところをはじめて見たよ。


 気持ちはわかる、すごくわかる。
 でも、これほどまでに「信じていない」のに、なんで88ヵ所もお寺を巡るということに、意義を見出すことができるのだろう?と疑問にもなるのです。
 身体的にハードな思いをすることによって何かを得たいのであれば、他にやりようはあるのではないか、と。
 それでも人は、「おへんろ」に出る。
 人によっては、何度も繰り返し。


 この本、イギリス人の夫と離婚したという「バツイチ」の女性ライターが、「歩き遍路」で88ヵ所を巡礼していくのですが、多くの「お遍路本」に書かれているような、自分の内面に潜り込んでいくような場面はあまりなく、むしろ、長い距離を歩き続け、時間を過ごしていくことによって、「快復」していくような感じです。
 いや実際、考えてもどうしようもないというか、時間が解決してくれることってあるし、体を動かしていると、夜もよく眠れるし。


 著者が女性だということもあるのかもしれませんが、これだけ道中でいろんな人に話しかけられたりすると、歩くこと以上に人間関係のストレスって大きそうだなあ、とも思います。
 著者は何年もバックパッカーとして海外を放浪していた経験もある、旅慣れた人だけれど、僕だったら、鬱陶しそうな人に話しかけられたり、「お接待」してもらったり、「善根宿」に泊まるたびに感謝しなければならなかったりすることに、耐えられる自信がありません。
 まあ、そういう自分を変えることができる旅、でもあるのかな。


 この本の読みどころ(といっては失礼ですが)は、著者が「遭難」してしまうところなんですよね。
 いや、悪天候のなか、目的地を目指してしまうのは無謀だとは思うけど、ここで「今日はお休み」できる人ばかりではないだろうな、とは思う。
 そして、遭難しながらなんとか救助してもらったにもかかわらず、ネットでは大バッシング!
 身近な人たちは、無事をものすごく喜んでくれたようなのですが。

 記事では私の軽装備について強調して書かれていた。世間への注意喚起のためにはもちろん必要なのだろう。ただ、あの山は、通常ならば軽装備で日帰り登山するのが一般的な場所だ。私のせいで今後、ほかのおへんろさんたちが必要以上の装備を強いられたらどうしよう。考えるとキリがないが、とにかくお詫びに行かなければ……


 僕も、こういうニュースを聞くと、「なんでわざわざそんな天候のときに行くんだよ」と言いたくなるのですが、スケジュールが詰まっていたり、気が急いていたりすると、「そういうこともある」のです。
 ほんと、無理はよくないけれど、あまり過剰に叩くのもよくないな、と。


 あと、ちょっと驚いたのが、ずっと昔からあったと思っていた「へんろ道」について著者が聞いた、こんな話でした。

「へんろ道がそう古くないことはききましたが、昔はなかったんですか?」
「そうよ。とにかく88の寺をまわるというのがおへんろだったから。決まった道なんかないの。行く先々で近所の人にききながら、歩かんといけんかったんよ」
「えっ、じゃあ私が歩いてきた”へんろ道”の札がぶらさがっているあの道はいつできたんですか?」
「おへんろが注目されて歩く人が多くなってきてから、いろいろ研究してる人たちが提案した道なんやないかね。この10年か20年か知らないけど、とにかく平成に入ってからよ」

 この話が正しいとするならば、「へんろ道」が整備されたのって、せいぜい20年くらい前、ということになります。
 そういえば、僕が子どもの頃は、いまほど「おへんろさん」について聞いたことはなかったものなあ。
 当時は、そういうものに興味がなかったから、なのかもしれないけれど。
 信仰心、みたいなものはなくても、「おへんろ」という行為に魅力を感じる人は、増えてきているということなのでしょうね。


 ちなみに「バツイチ」の詳細については、あまり書かれていません。
 でも、こういうタイトルにしないと、なかなか単行本としては出せないのかもしれないなあ。
 
 
 何かの参考になる、というわけではないけれど、人生、こういうのもありなんだよな、とは思える一冊です。
 「人間好き」じゃないと、かなりキツそうではありますね、やはり。

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