琥珀色の戯言

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ズートピア ☆☆☆☆


あらすじ
ハイテクな文明を誇るズートピアには、さまざまな動物が共存している。そんな平和な楽園で、ウサギの新米警官ジュディは夢を信じる一方、キツネの詐欺師ニックは夢を忘れてしまっていた。そんな彼らが、共にズートピアに隠された事件を追うことになり……。


参考リンク:映画『ズートピア』公式サイト


 2016年10作目の映画館での観賞。2D吹替え版。
 ジュディの声、どこかで聞いたことがあるんだけど、誰だったかな……と思いながら観ていたのですが、上戸彩さんでした。けっこう上手いんじゃないかな、この作品に関しては、ちょっとだけぎこちないところも含めて。
 今までのディズニーアニメって、英語版エンドクレジットのあと、最後に日本語版スタッフが字だけで紹介される、というパターンだったと思うのですが、今回はエンドクレジットのなかに、日本語版の声をあてている人たちが挿入されています。
 平日の18時からの回。
 観客は20人くらいでした。

 
 この『ズートピア』、予告編を観た時点では、「これは観ないな」と思っていたのですが、ネット上などでのあまりの評判の良さに、どんなものかと観に行ったのです。
 観終えてしばらく考えていたのが、「これ、どこかで感じた後味だな……」ということなんですよね。
 ようやく思い当たったのが『魔女の宅急便』!
 女の子が大人になって、夢を叶えるために都会に出て、そこで「現実」の壁にぶちあたる。
 でも、「ちょっとかわったパートナー」の協力によって、その壁を乗り越え、ひとつ、大人になって「適応」していく……
 それは、この映画の「完成度の高さ」を示しているのと同時に、僕には「ちょっとうまくいきすぎている感じ」もするんですよね。
 ただ、この『ズートピア』を観ていて思うのは、「フィクション」だからこそ、「アニメーション」だからこそ、実写ではキレイすぎて説得力がなさそうな物語が、けっこう素直に受け入れられるところがあるのだな、ということなのです。


 子どもも意識しているはずのアニメ映画で、ヒッピー的な生き方をしている人々や同性愛者のコミュニティが描かれていたり、マジョリティによるマイノリティの「差別」が起こるシステムについて、やや複雑な描きかたがされているのは、アメリカだよなあ、と思うのです。
 単に「強いものが弱いものを差別する」「多数派が少数派を差別する」というだけの話ではなくて、「差別をする側にも、それなりの理由や事情がある」のです。
 「怖いから、排除しようとする」面もあるし、「やらなければ、やられる」という恐怖感もある。
 それぞれの「違い」があるなかで共存するのは、けっして簡単なことではありません。
 そもそも、ジュディとニックはウサギとキツネだし、ニックは僕の顔認識能力では「なんか目つきが怪しい、信頼できなさそう」なんですよ。
 おそらく、あえてそういうキャラクターとして描かれているのでしょうけど。
 

 この『ズートピア』のなかでは、わかりやすい「真相」が設定されているのですが、現実には真相なんてなくて、「○○民族は優秀である」「だから、××人は信用できない」なんていうイメージを明確に肯定するデータが無いかわりに、完全に否定できるほどの根拠もありません。
 「もしかしたら」を突き詰めていったら、自分に理解できないものを、どんどん排除していくしかなくなってしまう。
 ドナルド・トランプ氏の「イスラム教徒を完全に入国禁止にする」という発言は大きな波紋を呼びましたが、「ちょっとでもリスクがありそうに見えるものを、なるべく排除したい」という発想は、「わからなくもない」のです。原発事故のあと、我が家でもペットボトルの水を大量に買い込んでいました。
 僕は、ネットで仕入れた知識で「そんなに買い込んでも、実際のリスクはそんなに無いと思うよ」と妻に言ったのですが、「そうかもしれないけど、わたしたちはともかく、子どもたちに悪影響が出たら、どうするの?」と詰問され、それ以上、うまく説明することができなかったのです。
 リスクがあるかどうかはわからないけれど、少なくとも明らかなリスクの増大を示すデータはない。
 あとは、そこで「受け入れよう、受け入れるべきだという理解と覚悟」が問われるのです。
 まあでも、そういうのが「きれいごと」だというのもわかる。
 信じたおかげで、騙されたり裏切られたりすることもあるのだけれど、だからといって、疑ってばかりでは先に進まないのも事実なんですよね。
 本当は、故郷でニンジンをつくる生活に満足できれば、それがいちばん「幸せ」なんじゃないか、とも思うんですよ。
 この映画を観ていると「駐車違反の取り締まりをしている人」は悲しくなるんじゃないか、という気がするし、すべてにおいて「政治的に正しい」ということはありえない。


 ……って、なんだか真面目に書いてしまいましたが、「キャラクターの動きも、ストーリー展開も、上映時間も、すべてにおいて、『ほぼパーフェクト』な映画」だと思います。
 突き抜けた長所はないのだけれど、「完璧な佳作」です。

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