琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ネット上に悪口を書くということ

「★てれびまにあ。(9/7)」
http://tvmania.livedoor.biz/archives/50071283.html

「日日ノ日キ(11/18)」
http://d.hatena.ne.jp/amiyoshida/20051118/1132296703

 率直に言って、ネットに匿名で文章を書くことの楽しみのひとつは、「ネットでは、物陰から人を撃てる」ということにあると思うのですよ。ひらたく言えば、「他人の悪口を遠慮なく言える」ヨロコビ。
 僕は現実世界においては、他人の悪口なんてほとんど言わない、誰かが過激な悪口を言っていると「まあまあ」って場を中和してしまうタイプの人間なんですけど(注・本当です!)、ネット上では、「デザーモヘタくそ!さっさと帰れ!!」とか、ついつい書いてしまうのですよね。そして、そういうふうに吐き出せる場所があるというのは、心のバランスを保つのに、非常に役に立っているとは思うのです。もちろんそれは、「自分が大概において、『一方的に悪口を言う側』である」というのが大前提なのですが。
 先日、広島カープ山本浩二監督が辞任されたのですけど、そのときの関係者の話として、山本監督が「ネットとかではだいぶ叩かれてたみたいだしな」と言っていたというのがありました。山本監督が、もう還暦が見えているくらいの年齢になられているにもかかわらず、「ネットでの自分の評判」というのを知っているというのに、僕はちょっと驚いたのです。そして、「それが監督の宿命」であっても、あんなふうに連日連夜自分の悪口を読まされるのは、やっぱり辛くてしょうがないだろうな、と思いました。そういう「ナマの声」って、マスコミに叩かれるのとはまた別の辛さがありそう。
 もっとも、僕も山本監督の辞任には、「ようやくか…」と安心したのですけどね。

 でも、「攻撃側」が軽い気持ちで「匿名で誰かの悪口を書くこと」によってストレスを解消しているつもりでも、「ネットに書かれている悪口」っていうのは、書かれる側にとっては、けっこうダメージを受けるものなんですよね。たとえそれが、明らかな「誹謗中傷」でしかなくても、「自分に直接関係の無い『名無しさん』『通りすがり』に悪く思われている」というのは、「お前だって悪いじゃないか!」と言い返せないだけに、リアルでの罵りあいとは違う、行き場の無いストレスになってしまうのです。「あんなヤツに何を言われても気にしない」と思いたいけれど、どんなヤツだかわかんないのだしさ。そもそも、顔もわかんないヤツにまで悪口言われるほど自分は嫌われてるのか?とか思うと、かなりキツイ。
 僕たちは誰もいない暗闇に向かってマシンガンをぶっ放しているつもりでも、実際はそこに人がいて流れ弾に当たって血を流していたりするわけですよ、それがインターネットなのだから。
 そして、http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20050909#p1に書いたように、ネット上の言説は、あまりに多くの人の目にふれてしまう可能性があるため、思いがけないところで他人を傷つけてしまう可能性だって、十分にあるわけですよ。僕だって、小さなことではありますが、阪神ファンが、「金本アニキ!」とかいって喜んでいるのを読むたびに、「なんであんなカープを裏切った選手が、昔から阪神にいたような顔をして、のさばっているんだ!」とかムカついているわけです。阪神ファンの人は、そんなこと言われても「へっ?」って感じでしょ?でも、そういうものなんですよ、「感情」ってやつは。
 「最低限のレベル」っていうのはあるとしても、「自分からみた他人を傷つけてもいいレベル」と「相手にとっての、傷つけられても耐えられるレベル」には、格差があることがほとんどです。でも、ネットって、相手の顔が見えない分、悪口を言う側だって「暴走」してしまいがちなんですよね。そもそも「匿名で悪口を言っている」時点で、すでに「負け犬」なのですけど、そんなことは誰も認めたくないわけで。

 たぶんね、ネットで実在の人に対して酷い悪口を書く人って、「車に乗ると人格が変わる」という人と同じようなタイプなんじゃないかな、と僕は思っているのですよ。普段は穏やかなのに、「車」という「力」を手に入れた瞬間に、他の車をアオリまくったり、猛スピードを出したり。
 でも、考えてみれば、日頃どんなに徒手空拳で「暴走」しても、人を殺しちゃったりすることなんて、まずありえないわけですよ。ところが、車を運転しているという状況だと、ちょっとハンドルを切りそこなうだけで、「人殺し」になってしまうよう危険と隣り合わせなのです。にもかかわらず、「車に乗ると気が大きくなる」人って、けっこうたくさんいるんですよね。凶器だと思わずに凶器を振り回している人って、ものすごく怖いよ。そして、人を轢いてしまったあとで、「こんなはずじゃなかった、よけないヤツが悪い」と言ってみても、まさに後の祭り。もちろん、それで具体的な罪に問われることはないとしても、もともと傷つきやすいからこそネットで「暴走」していた人たちにとっては、そのことによって受ける「心の傷」は、けっして浅くはないはずです。
 ネットは楽しい、でも、ネットというのは、あくまでも「双方向性」のツールであるということを忘れてはならないと思うし、自分だけが「絶対者」なわけがありません。少なくともこれを読んでいる人の数だけ、「絶対者」が存在しているのだし、ということは、裏を返せば、誰も「絶対」ではありえないのです。
 「ネットだから、悪口が書ける」というのは、大きな誤解なのかもしれません。そもそも悪口ばっかり書いている時点で、自分では「毒舌」「辛口」なんて気取ってみても、外からみれば「単なる不平屋」だと思われているだけだったりするものですし。

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