琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

トニー滝谷

非常に珍しい、村上春樹作品の映像化ということで話題になった作品。どこかの紹介記事を見て、一度は観ておかねばと思っていたのですが、忘れたころにビデオレンタル店で発見。
イッセー尾形宮沢りえ主演、音楽・坂本龍一という豪華キャストなのですが、なんというか、演劇的かつ幻想的な作品に仕上がっています。もうひとつ言わせてもらえれば、寝不足だったことがあるとはいえ、24時から観たら、何度か「寝落ち」しそうになりました。フランス映画っぽいというか、原作のテイストを考えたら、そうならざるをえないというのもわかるんですけどね。
しかし、こういう「コミュニケーションが根本的に苦手で、自分の世界に閉じこもってしまう男」を演じさせたら、イッセーさんの右に出る人は、なかなかいないよなあ。西島秀俊さんのぼそぼそとしたナレーションとあいまって、独自の世界をつくりあげています。静謐で、閉じた空間。
宮沢りえさんに関しては、僕は最近の宮沢さん大好きですし、ものすごく期待していたんですけど、この映画の世界にはいまひとつフィットしていなかったような気も。しかしながら、じゃあ、誰があの役を他にできるのか?と問われたら、答えに窮してしまいます。
あと、この映画のつくりとしては、西島さんのナレーションにプラスして、印象的な文章の一部を出演者が喋るようになっていて、なんだかそれが「演劇的」なのですけど、もし「村上春樹的なナレーション」が、この作品から一切排されていたら、この作品が「村上ワールド」であるとはちょっと想像しにくいような気もしました。あの「おせっかいなくらいの自己言及」こそが、村上春樹作品を他の作品と差別化しているのだな、と。
そういう「言語的要素を取り除いた映像化」では村上作品らしさは伝わらない、ということなのでしょうし、それがまた、村上春樹自身が、「自分の作品の映像化を拒否し続けている理由」なのかもしれません。「ノルウェイの森」とかも、だいぶ話はあったらしいのですが。
ちなみに、村上さんは、【ウディー・アレンやデヴィット・リンチが監督であれば、無条件に映画化を承諾する】そうです(http://www.enpitu.ne.jp/usr6/bin/day?id=60769&pg=20051129)。それも現在の世界の文学界の村上春樹のポジションとしては、けっして「大風呂敷」ではないような気もします。
けっして、万人に勧められる作品ではないと思うけど、村上春樹ファンなら一見の価値はあるかな。
(正直、面白かったり、ストレス解消にはなったりはしないし、「村上春樹の作品を映像化すると、こんな感じになるんだな」という興味を持てない、つまり、ファンではない人にとっては、勧めがたいです)

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