琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

陰日向に咲く

陰日向に咲く

陰日向に咲く

いま売れまくっている、劇団ひとりさんの処女小説。いや、これが処女小説なんだから参ってしまいます。
なんというか、「ダメな人」の痛みがこれほど切実に描かれている小説、僕は読んだことがありません。劇団ひとりさんは、「ダメ人間」というのを、上から見下ろすのではなく、さりとて、やたらと「社会派」的に問題提起するのでもなく、「ただ、そういうものなのだ」と諦念と屈折した共感が入り混じったような、同じ高さの視線で書いています。
恩田陸さんが、オビに

ビギナーズ・ラックにしては上手すぎる。あと二冊は書いてもらわなきゃ。

と推薦文を贈られているのですが、まさに「上手すぎる」作品ですこれは。
ただ、その「上手すぎる」というのは、逆に「インパクトというか、心への引っかかりの弱さ」につながっているのかもしれません。リリー・フランキーさんの「東京タワー」なんて、やたらと文学青年くさくて、けっして「上手い文章」「巧い小説」ではないのにもかかわらず、世間の人々の心をわしづかみにしているのですから。
いや、この「陰日向に咲く」という作品も、やっぱり「劇団ひとりが書いた!」という先入観があればこそ、いっそう興味がわくのも事実なんですけどね。

ちなみに、劇団ひとりさんは、
http://www.enpitu.ne.jp/usr6/bin/day?id=60769&pg=20060218
↑で、「ダメ人間」だった頃のころを語っておられます。
だから、この小説は「リアル」で、「安易な救い」がないのかもしれませんね。

ところで、この本、「泣ける小説」として売られているみたいなんですけど、泣けるかなあこれ。僕は、読み終えたあと、ただひたすら切なさと虚しさと生命力みたいなものに押しつぶされて、ただただボーっとしてしまいました。もっとドラマチックなエピソードを盛り込んで、「泣かせにいく」ことはできたはずなのに、あえてそうしなかった劇団ひとりさんは、やっぱりすごい才能のような気がします。

できれば、鳴子の話をもうちょっと読みたかった、かな。

アクセスカウンター