琥珀色の戯言

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蛇にピアス

蛇にピアス (集英社文庫)

蛇にピアス (集英社文庫)

金原ひとみさんの芥川賞受賞作。綿矢りささんの「蹴りたい背中」は出てすぐ読んだのに、こちらのほうは結局いままで読んでいなかったのは、この本のほうが薄くて割高な印象があったのと、描かれている「スプリットタン」というのを想像しただけで気持ち悪かったからです。あと、いかにも現代の若者という感じの金原さんよりも、綿矢さんのほうがルックス的に好みだったし。
そういえば、受賞直後に読んだ本好きの上司が、「蹴りたい背中」よりも「蛇にピアス」のほうが面白いって言ってたなあ。

それで、この「蛇にピアス」なのですが、僕の正直な感想としては、「気持ち悪い」なんですよね。なんというか、すごく粘膜チックというか、背中で虫歯がキリキリ痛んでいるというか、そんな感じ。でも、これが駄作かといわれると、なんだかすごく心に残ってしまう小説なわけです。出てくる登場人物には誰一人感情移入できないというか、こういう人たちを街で見かけたら絶対避けて通るだろうし。こういうのが「若さの痛み」なのかもしれないけれど、僕が20歳のときに読んでいたら、「こういうやつらが日本をダメにするんだ!」とか憤っていたのかもしれません。それはそれで、痛々しい若さの発露だという気もしますが。
しかし、こういう作品を読むと、つい「書いた人間の顔」を思い浮かべてしまう自分のエロオヤジっぷりが嫌だ。
芥川賞というのは、「作家として生きていくためのパスポート」なんて言った人がいましたけど、確かに芥川賞は作家のキャラクター重視というか、作品を読んで「これは誰が書いたんだ?」と興味を持たせるような作品が選ばれるような印象です。

そして、こういう「作家が見える現代小説」への反動として、最近「フィクションとしての心地よい物語」を描ける児童文学出身の作家たちの台頭があるのかもしれません。書き手の「痛み」を投げつけられるような小説ばかりでは、読むほうだってくたびれてきますしね。

ところで、この本を読んで凄いと思ったのが、巻末の村上龍さんの「解説」です。ほんと、「解説」読んで感動したのは久々。

 ルイはこんなことは言わないだろう、ルイはこのシーンではセックスしないだろう、ルイはこうなったあとは食事できなくなるだろう、作者はそういうことを社会的な意識と本能的な感覚の境目で考えたり感じたりしながら、正確に書いていくのだが、不明なことは、絶対に書いていない。不明というのは、作者がルイの気持ちや感情や言葉を想像できないということではない。そういうときはルイ本人にも自分の感情や言葉がよくわからないのだ。嘘がないというのはそういう意味だが、優れた小説というのは必ずそうやって書かれる。作者は登場人物たちをコントロールするわけではなく、登場人物たちに引きずられるわけでもない。小説を書いている間、作者は登場人物たちと「共に生きる」のだ。

作家と小説中の登場人物との「関係性」をここまでクリアに書き表した文章というのを、僕は読んだことがありません。
彼の作品そのものはあまり好みではないのですが、「時代の眼」としての村上龍の凄さを思い知らされました。

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