琥珀色の戯言

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九月の四分の一 ☆☆☆(満点は☆5つ)

九月の四分の一 (新潮文庫)

九月の四分の一 (新潮文庫)

ああ、大崎善生だなあ、としか言いようがない短編集。
正直僕は大崎さんのカッコつけまくりの主人公の男とかすぐに寝たがる(あるいは寝てしまう)女性像は苦手なのですが、「こんなにうまくいくわけないだろ…」とかボヤキながらも結局は読み終えてしまうんですよね大崎さんの作品って。共感はできないけれど、惹きつけられる魅力はあるのです。
この短編集では、「あまり現実的ではない物事への探求」に熱心な男性が主人公であるものが3篇あります。そして、その作品のなかでは、その「現実利益よりも形而上学的な真実を追い求める若者たち」が「勝つ」わけです。
でもね、僕が今まで生きてきた現実社会においては、チェスとか小説とか音楽みたいな「真理の世界」に引き込まれた人間の多くは、そのまま樹海に向かってしまいました。この作品の主人公のような「非生産的な男たち」が「勝利者になれる可能性」というのは、実際はほとんどゼロに近いと思います。収録されている『報われざるエリシオのために』の友人・武井のエピソードなんて、あまりにこれみよがしな展開で、かえってしらけてしまいました。そういう意味では、この作品群は、『電車男』よりもはるかに「ファンタジー」なのかもしれません。
しかし、現実では勝てなかった「非生産的な男たち」が描いた「こうなるはずだった夢」として、大崎さんの小説は存在しているのではないかな、とも僕には思えますし、それもまた「小説」の役割のひとつなのでしょう。
ちなみに、収録作のなかで最も僕が好きだったのは『ケンジントンに捧げる花束』です。僕はこの作品を、どこかに行く途中の飛行機の機内誌で読んだような記憶があるので、意外な「再会」でした。

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)

ちなみに、大崎さんの作品としては、僕はこちらのほうが好きです。
「将棋」がテーマだと、大崎さんの「勝ち組的ないやらしさ」をあんまり感じないんですよね、なぜか。

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