琥珀色の戯言

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薬指の標本 ☆☆☆☆

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

 繊細で、美しくて、そして残酷な物語。
「神は細部に宿る」という有名な言葉があるのですが、小川洋子という作家の「細部」へのこだわりには、なんだか鬼気迫るものを感じます。指、爪、靴、骨、傷跡……そのような「細部」がリアルに語られていくことによって、非現実的な物語でさえも、とても現実的なもののように思えてくるのです。解剖実習をやっていたときに、内臓よりも指や髪の毛のほうに「人間」を実感して息を呑んだのを思い出しながら読みました。
 「人の心の奥底にある、不条理な何か」を語らせたら、この人の右に出る人はいないかもしれません。小川さんが描く女性像というのは、真面目で、几帳面で、ほんの少し世の中から浮いている、そんな人が多いような気がするのですが、そういう「真面目で目立たない人の心の奥に潜んだ衝動」というのは、他の女性作家が描くような「自意識過剰な女性」の「不条理な行為」とは全く違った説得力を持っているのですよね。森絵都さんや角田光代さん、あるいは山田詠美さんが書く「等身大の女の性」よりも、僕にとってははるかに切実なものであるように思われるのです。もしかしたら、「普通の人」のほうが、むしろ、心の闇は深いのかもしれません。小川さんが描く「潔癖な強迫観念に満たされた世界」というのは、村上春樹さんに通じるものがあるようにも感じられますし。男である僕からすれば「この作品には、実体としての『男』はひとりも出てこないような気がする」のも事実なのですが(それは、村上春樹さんの作品に、リアルな「女」が描かれていないと批判されることがあるのと同じなのかも)。
 自分には、「標本にしたい何か」や「六角形の小部屋で語りたい何か」があるだろうか?
 僕はたぶん、これから何かの拍子に、そんなことを考えるようになると思います。
 

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