琥珀色の戯言

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ミーナの行進 ☆☆☆☆

ミーナの行進

ミーナの行進

博士の愛した数式」の小川洋子さんの最新作。
正直、最初の100ページくらいは、「読むのだるいな……」と考えつつダラダラと読んでいました。いや、本当に「大きなことは何も起こらない話」なので。そういえばうちにも米屋さんがプラッシーを持ってきてくれたなあ、とか、そんなことを思い出しつつ。家の事情でお金持ちの伯母さんの家に1年間預けられた朋子の目からみた、飲料水会社社長一家の生活が描かれているのですが、この物語は、とにかく終始「喪失の予感」に満ち溢れているのです。この物語は、大人になった朋子によって、「今はもう失われてしまった『完璧な時間と空間』」について書かれているもので、カバのポチ子、日本のバレーボールチーム、ミーナのマッチ箱などのさまざまな「小道具」が、非常にうまく配されているのです。『博士の愛した数式』での「江夏」のように。
この小説を読んでいると、僕も自分の子どもの頃を思い出してしまいました。そう、誰の人生にも、子供の頃には「完璧な時代」というのが、ごくわずかな間だけあるんじゃないかな、という気がします。でも、その時代はあまりにも短くて、後から考えると、あまりにも微妙なバランスの上にしか成り立たない、すごく貴重な時間なのです。自分がその場にいるときには、全然気付かないんだけど。
相変わらず小川さんは残酷で素っ気無い作家だなあ、と感じるのと同時に、だからこそ彼女は「本当に完璧な一瞬」をこんなにうまく形にできるのだなあ、と読み終えて感じました。この物語は「喪失の物語」でもあるのだけれど、僕が感じた予感ほどに「理不尽な、圧倒的な喪失」が描かれているわけではなくて、ただ、「失われるべきものが、失われていく物語」でしかないのに、どうしてこんなにせつないのだろうか。
「面白い本」「刺激的な本」が読みたい人には、積極的にオススメはできません。
でも、自分が大人になってしまったことに淋しさを感じたことがある人は、一度読んでみていただきたい作品です。
そうそう、寺田順三さんの刺画も素晴らしいです。あの絵がなかったら、途中で読むのを止めていたかもしれないくらいに。

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