琥珀色の戯言

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腑抜けども、悲しみの愛を見せろ ☆☆☆☆

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

 佐藤江梨子主演で映画化されるということで話題の作品なのですが、同じ本谷有希子さんの作品で芥川賞候補になった『生きてるだけで、愛』よりも三島由紀夫賞候補になったこちらのほうが、ずっと良い作品(であり、ずっと心の琴線の不協和音をかき鳴らしてくれる作品)であると思います。「自分は特別なんだ」という自意識のみに支えられて生きている澄伽と、「被害者」のようで、実は冷徹な観察者でもある清深、そして「自分を消すこと」によって生き続けている待子。たぶん、これらのキャラクターには、本谷さんの澄伽的な面と清深的な面がそれぞれ反映されて、2人の人間に分割されているのだと思います。この作品では、澄伽の「残酷な仕打ち」がかなり心にキリキリと迫ってくるのですが、実は、「本当に残酷なのは誰か?」なんてことを、僕は読み終えて考えてしまいました。人間の「どうしようもなさ」って、自分が年をとればとるほど、なんだか責められなくなってくるんだよなあ。
 もともと戯曲であった作品だということもあり、登場人物のキャラクター造形がわかりやすすぎるところとか、あまりにも「舞台で上演されている様子が見えてしまう」ところなどは、ある種の「長所」であり「短所」のような気もしますけど、限りなく不愉快なはずなのになぜだかニヤリとさせられてしまう不思議な読後感もあわせて、すごくパワーを感じる作品でした。『生きてるだけで、愛』は、むしろ、「小説的」にしようとしすぎてしまった作品なのかもしれません。本谷有希子さんを読むのなら、まずこの作品から入ることをオススメします。
 しかし、装丁も凝ってはいるんだけど、これで1400円は、やっぱり青少年には高いよね。もっとも、青少年向きの本じゃないとも思うんだけどさ。

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