琥珀色の戯言

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書店繁盛記 ☆☆☆☆☆

書店繁盛記

書店繁盛記

 僕は子供のころ、弁護士か本屋さんになりたかったので(弁護士になりたかったのは「ひまわりの歌」の影響です、とか書くと年がバレそうですが)、今でも「書店」や「書店で働く人たち」にはすごく興味があります。でもまあ、実際は「書店で働く」というのは、子供の頃僕がイメージしているような「好きな本を並べて自分もカウンターで本を読みつつお客さんを待てばいい商売」ではないのですよね。
 この本は、「ジュンク堂・池袋店」の副店長である田口久美子さんが、書店員としての体験談や書店という商売の現状について書かれているのですが、書店員たちの「棚」への強いこだわりや「本への愛情と仕事の厳しさとのせめぎあい」が非常に切実に伝わってきます。僕にとっては、ただ「並べられている」ように見える「書棚」というのは、まさに、書店員たちの研鑽の賜物なんですよね。同じような規模の「本屋さん」のはずなのに、なぜか何冊も欲しい本を見つけてしまう店と、何周しても読みたい本が見つからない書店というのがあるのですが、それはきっと、店員さんの「工夫」とか「僕の趣味とのシンクロ率」の差なのでしょう。
 この本には、

 そうそう、池袋店の開店準備にはこんなことがあった。当時は芸術書を担当していた、と再三書いた。書店のレイアウトは入口を決めるところから始まる。少なくとも私はそうしている。お客さんの来店導線を想定してレイアウトを決めるのだ。芸術書は最上階の9階にあった。エスカレーターを上がってすぐの棚や平台に新刊を並べる。そのフロア全体の新刊を一箇所に集中させるとしたらここだ。お客さんはここを見ると、そのフロアの扱い書目がざっと分かるはずだ。ここをフロントに、美術書から始めて、工芸書、写真、映画、演劇、芸能、などという順番に並べていった記憶がある。ジャンルの取り合わせは文芸書のほうがもっとわかりやすいかもしれない。私は、入口から新刊台→日本現代文学→時代・戦記→日本ミステリー・社会・経済小説→海外ミステリー→海外文学、こんな流れで小説ジャンルを作る。売りたい、話題になる確率が高いジャンルを、イチゲンさんがさっと見てさっと買ってくれるジャンルを、前に出す。お客さんがじっくり探してくれる、専門性が高いジャンルは後方になる。肝心なことは、隣接するジャンルをなるべく同じ客層にすること。

 というような「書店全体および、各フロア、各書棚のレイアウト」のノウハウなども書かれており、客としてはなんとなく眺めているだけの「並び」に、これだけの意図があったのかと感心してしまいます。まあ、こういうのを真似できるような規模の書店というのはそんなにないのかもしれませんが。
 そして、「ベストセラー」だけが書店に必要な本ではないのだ、ということもよくわかります。

 本好き、書店好きにはコタエラレナイ本だと思いますので、興味のある方はぜひ御一読を。

 ところで、僕はこの本のなかで、一箇所ものすごく気になったところがあったので、それについて一言だけ。
 「探している本が無い」ことについて、書店員がお客さんにかなり理不尽なクレームをつけられるという話の一部。

 仕事とは直接関係ないが、こんなことを思い出す。先日病院で母の病状をひととおり説明し、帰り際に「足がしびれる、って言うんです」と付け加えて言ったら、先生が「えっ、どうしてもっと早く言わなかったの、他の症状はもうないでしょうね」ときつい顔をした。ああ、その鬼のような顔、私もお客さんにそんな表情をしているときがあるのだろうな。でもお医者さんはいいわね、言葉にして怒りを表現できるから。書店員は言いたくてもいえないの。

 医者である僕にとっては、「書店員はいいわね。どんなにその場で理不尽に怒られても、とりあえず頭を下げていればいいんだから。探していた本が見つからなかったという理由で裁判所に訴えられたり、マスコミに叩かれたり、警察に逮捕されたりすることなんでないもの」とお返事したい気分です。こういう、「とにかく医者は偉そうだから悪口書いとけばいいや」っていうのは、「自分は客なんだから、書店員にどんなに怒りをぶつけてもいい」っていうのと、同じベクトル上にあるんじゃないのかなあ。

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