琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

失われた町 ☆☆☆☆

失われた町

失われた町

 30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」を生きる残された人々の悲しみ、そして願いとは。大切な誰かを失った者。帰るべき場所を失った者。「消滅」によって人生を狂わされた人々が、運命に導かれるように「失われた町」月ケ瀬に集う。消滅を食い止めることはできるのか?悲しみを乗り越えることはできるのか?時を超えた人と人のつながりを描く、最新長編900枚。

 直木賞の選考でも、『空飛ぶタイヤ』とともに最後まで残ったそうですし、かなり評判の良い作品だったので、僕も期待して読み始めました。900枚もの大作にもかかわらず(実際は短編作品の積み重ねなのですが)、最後まで息切れせずに読み終わることができましたし、登場人物の抱えている「生きることの重さ」みたいなものがフィクションだけにかえって押し付けがましくなく伝わってきたので、全体としてはすごく好印象の作品でした。
 ただ、読んでいて、いまひとつ話にのめりこめないところがあったのも事実なんですよね。話が中途半端にSF的で、この世界の「ルール」が、あまりにも作者にとって都合の良いものになっているのではないか、と感じられましたし。だって、「失われた町」をうつした「写真はダメ」で描いた「絵ならOK」ってルールは、やっぱりちょっとおかしいよ。ワイエスみたいな人が描いた絵なら、写真とそんなに変わらないだろうし。「分離」とかいう設定も、理解不能というか、そういう設定をあえて作った「意味」が僕には見出せませんでした。それと、登場してくる人物(とくに女性)が、みんな「目的を果たすために、迷いを持たずに突き進んでいける人」だというのは、彼女たちへの共感よりも「人間不在」の印象を強めてしまっているような気がします。三崎亜記さんはまさに「そういう女性」を描きたい作家なのかもしれないけれど、そういう人の姿ばかりを読まされていると、僕は自分のダメさがひたすら悲しくなってくるんですよね。あと、「エピソード5」みたいに、「これって、ライトノベル?」と感じてしまうような違和感のある話が突然入っていたり。いや、連作短編としていろんなバリエーションの話があるのは良いとは思うんですよ、『死神の精度』みたいに。でも、伊坂さんはニヤニヤしながら変化球を投げているのに対して、この『失われた町』って、三崎さんがそういう「ライトノベル風SF話」を真剣に、真面目に書いているのが伝わってきて、なんだかとても息苦しい感じなのです。
 ああ、なんだか文句ばっかり書いてしまいましたけど、良い作品であることは間違いありません。三崎さんが投げたボールの「重さ」は、僕にはしっかり伝わってきました。でも、三崎さんは、変にSFにこだわるより、歴史小説とかのほうが向いてるんじゃないかなあ。

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