琥珀色の戯言

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逃亡日記 ☆☆☆

逃亡日記

逃亡日記

 『失踪日記』『うつうつひでお日記』に続く、吾妻さんの「日記シリーズ」第3弾。僕にとっては『うつうつひでお日記』はあまりに吾妻さんの個人的な趣味に偏りすぎていて面白くなかったので、『失踪日記』寄りだと思われたこの『逃亡日記』にはかなり期待していたのですけど。読んでみた感想としては、なんだかいまひとつでした。というか、このシリーズ、『失踪』>>『うつうつ』>『逃亡』と、どんどん劣化してきているような気がしてなりません。というか、『失踪日記』が売れてから、吾妻さんの『失踪体験』がどんどん美化されてきているような印象があって、なんだかちょっと受け入れ難い。ちょっと前、ある昔は有名だったフォーク歌手が亡くなったときの話なのですが、彼のファンたちはその訃報を聞いて弔問に訪れて哀悼の意を表していた一方で、ずっと彼に迷惑をかけられ続けてきた彼の身内たちは、「あんなアルコール依存の厄介者、いなくなってせいせいした」と言っていたというのを聞いたことがあります。いや、吾妻さんや中島らもさんの場合は、「アルコール依存体験」も「作品」に昇華できたのかもしれませんが、大部分のアルコール依存患者たちは、周囲の人間にとっては「本当に勘弁してくて、もう関わりたくない……」と言いたくなるような存在なのです。でも、世間に受け入れられるのは、こういう「少数派」の体験のほうなんだよなあ。
 ただ、こういう作品というのは「失踪予備軍」にとっての一種の「疑似体験」というか「ガス抜き」みたいな面もありそうなので、必ずしも悪影響ばかりではないのでしょうけど。そういえば、『完全自殺マニュアル』がベストセラーになったときにも、「この本は自殺を助長する」のか「自殺という方法を知ることは、余裕のある(いざとなったら死ねばいい)生につながる」のかという論争がありましたよね。僕には、どちらが正しいのかよくわかりません。とりあえず大部分の人はこれらの本を読んだからといって失踪も自殺もしないというころだけは事実ですが。
 うーん、でもこの本を読んでいると、周囲は「流行」の吾妻ひでおという人間で、賞味期限が切れないうちになるべく在庫が残らないように商売してしまおう、と考えているというのがものすごく伝わってきます。吾妻さんには西原理恵子さんみたいに自分で自分をプロデュースするという「計算高さ」みたいなものはなさそうなので、この調子では、あとどのくらい人気が持続するのか疑問ではありますね。まあ、『失踪日記』が売れすぎただけであって、コアなファンは多い人なので食いっぱぐれたりはしないと思われますが。

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