琥珀色の戯言

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しゃべれども しゃべれども ☆☆☆☆☆

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
俺は今昔亭三つ葉。当年二十六。三度のメシより落語が好きで、噺家になったはいいが、未だ前座よりちょい上の二ツ目。自慢じゃないが、頑固でめっぽう気が短い。女の気持ちにゃとんと疎い。そんな俺に、落語指南を頼む物好きが現われた。だけどこれが困りもんばっかりで…胸がキュンとして、思わずグッときて、むくむく元気が出てくる。読み終えたらあなたもいい人になってる率100%。

「しゃべること」「他者とコミュニケーションをとること」の難しさが、きちんと丁寧に描かれていて、しかも、それでいて読んでいて面白いという作品です。この本は、1997年度に「本の雑誌」でベスト小説部門第1位に輝いたそうなのですけど、巻末の「解説」で、北上次郎さんが、

 幼児虐待も出てこないし、派手な殺人事件も起こらない。ところがこれが実に読ませて飽きさせない。胸キュンの恋愛小説であり、涙ぼろぼろの克己の物語であり、そしてむくむくと元気の出てくる小説なのである。私が書いた当時の新刊評を引用すると「うまいうまい。こういう才能の出現に立ち会うのは実に久々のような気がする」

と書かれているのですが、まさに「そういう作品」です。文体の個性と流れるようなテンポのよさは特筆もの。
ストーリーは、なんだかちょっと「きれいすぎる」ようにも思えるのですが、それでも、この作品を読むと、「出口」そのものが描かれていないにもかかわらず、「どこかに出口はあるのかもしれないな」という気持ちにはなれるんですよね。なんだか、すごく「善意」が伝わってくるんですよ。センセーショナルな題材に頼るのではなく、ここまで「読ませる」小説を書いた佐藤多佳子さんは、本当に凄いと思います。まさに「自分の子供に読ませたくなる本」です。

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