琥珀色の戯言

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伝説のホテルマン「おもてなし」の極意 ☆☆☆

日本初の外資系ホテルとして誕生し「ホテルマン養成学校」とも呼ばれた東京ヒルトンホテルにハウスマンとして入社。徹底した国際的サービス哲学を学び、接客サービスの最高責任者エグゼクティブコンシェルジェまで上り詰めた著者による、ホテルマン人生42年の集大成。

 読み終えての感想。
 うーん、惜しい、惜しすぎる……
 ”ミスター・シェイクハンド”こと伝説のコンシェルジェ、加藤健二さんにこのテーマで本を書いてもらうのなら、もっと面白い本になりそうなのに……
 この本、なんというか、率直に言うと「功成り名を遂げた昔気質の仕事中毒の人のお説教」みたいな感じがするんですよ。読んでいると、参考になるというよりは、「ここまでやらなければならないのか……」とあまりの道のりの遠さに愕然とするばかりです。そして、もうひとつ気になるのは、この本に出てくるのは有名人たちが大部分で(まあ、お金が無い人は『キャピトル東急』にはあまり泊まらないでしょうし)、読んでいるうちに「ああ、なんだか上流階級の人たちっていうのは、上流階級のネットワークを使って、お互いに便宜をはかり合って利権を守っているのだな」と思えてくることでした。「良いホテルマン」にも「ホテルにとって大切なお客さま」にもなれない僕は、どうすればいいのだろう?と。

 加藤さんが素晴らしいコンシェルジェであることは言うまでもありませんが、僕にとっては「住んでいる世界が違うよなあ」というような印象が強かったです。少なくとも、僕にとって身近な人という感じはしませんでした。コンシェルジェを「利用する」どころか、話しかけるにも畏れ多いというのが僕の今の「階層」なんですよね。

 もちろん、この本には「サービス業」にたずさわるものとして参考になるところもたくさんあるのです。

 もちろん、私たちホテルマンは、ホテルに来ていただいたすべてのお客様に、ハッピーに過ごしていただけるように努力しています。しかし、一方ではホテルの従業員として、いかに収益を上げるかも考えなければなりません。そのためには、より多くのお金を使っていただけるお客様の心をしっかりとつかむことも必要です。ハンデル総支配人は、それがとても上手でした。
 このお客様はホテルにとって重要なお客様だと考えたとき、たとえば、そのお客様たちがレストランで食事をしているところへご挨拶にうかがい、ごく自然に会話のなかに加わり、さりげなく伝票にサインして「お邪魔しました。どうぞ、夕食をごゆっくりお楽しみください」とにこやかにその場から立ち去る、そういうことができる人でした。恩着せがましいところもなく、実にスマートに食事をサービスする、そうすることで、逆にお客様の心をしっかりとつかむことができたのです。

 お客様と会話することは大切です。とはいえ、度を越してしまっては、かえって逆効果になることもあります。
 ロビーで時間をもてあましているVIPゲストを、ときに、お茶にお誘いすることがありました。こうしたとき、私はご一緒した席で、絶対に長居をしないように心がけていました。少しだけお話をして、伝票のサインを済ませたら、「どうぞ、ゆっくりなさっていってください」と私は早めに席を離れます。
 どんなに親しくさせていただいているお客様でも、ホテルマンと向き合って長話をしたいとは思わないはずです。すぐに席を立ってこそ、お茶にお誘いした意味があります。
 すべては、お客様の立場に立って考える、それが大切です。

 まあ、読んでみると「サービスの極意」というより、「ホテルっていうのは、VIPだといきなり御馳走してもらえたりするのか……」という驚きのほうが大きかったです。そんな目にあったことはもちろん、そんな光景を見たことすらないよ……
 そして、セレブの人たちって、いきなりホテルの人から食事やお茶を「サービス」されても、平然とそれを受け入れられるものなんですね。僕が万が一こんなことをしてもらったら「いえ、払います自分で、御馳走していただくなんてとんでもない!」と慌てふためいてしまいそう。
 こういうのがやたらと気になるのって、僕が「日本人的なサービス平等主義」に縛られているからなんでしょうけど。

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