琥珀色の戯言

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そこまでやるか!―あなたの隣のスゴイヤツ列伝 ☆☆☆

そこまでやるか!と誰もが目を見張る。一見フツーの人のトンデモない努力(大いなる無駄も)と一風変わっているがゆえのスゴイ結果を出した66人をユーモラスに描くコラム集。本物のプロは過剰な思いこみから生まれる?異色の日経夕刊1面連載、遂に単行本化。

 この本では、66人の「スゴイヤツ」が取り上げられています。その「スゴさ」も千差万別で、世界レベルの研究をしている人、ベンチャー企業の社長さん、圧倒的な売り上げを誇るコンビニ店主、美少女フィギュアの職人など、ほんとうにさまざまなジャンルの人が紹介されているのです。『プレジデント』に載ったり、『文藝春秋』で対談したりするような「偉い人」ではないけれど、一芸に通じた個性的な「達人」たち。なかには、ちょっとそのこだわりは病的なのでは……と思うような人もいますけど。
 「読み物」としては、一人あたりのページ数が少ないこともあり、そんなに深みはないのですが、「この人のことだけでも、本が一冊書けそうだな」というような人もけっこういて、自分の仕事に閉塞感を抱いているときなどの気分転換には良い本だと思います。逆に「一人一人が短い」からこそ、気軽に読めるというメリットもありますしね。

 この本のなかで、ちょっと驚いたところ。
 研磨職人・小林一夫さんの項より。1990年代半ば、中国製の安価な食器に押されて、新潟県燕市の研磨業者たちに危機がおとずれたときのエピソードです。

 仕事が入らず、暇で暇で仕方のない辛い時期、工房の自動研磨機を眺めて考えた。機械で磨くものはこれからすべて中国に行くだろう。「ならば誰もまねできない手の技で勝負だ」。 一台500万円の機械は全部たたき売り、きっぱり見切りをつけた。
 当時、電子機器の外装に使われ始めたマグネシウムに小林は目をつけた。摩擦熱を嫌い、加減を間違うと形が崩れ、表面が泡立つ。酸化しやすく、間違いがあると粉塵爆発を起こし、機械どころか手でも磨けないとされていたマグネシウム、この難物を光らせたら食える。
 ステンレス200度、アルミニウム80度。過去の経験では金属はそれぞれ磨きに適した温度を持っていた。マグネシウムにもきっとそんなツボがあるはずとにらみ、専門書を読みあさった。バフと呼ばれる布を巻いた研磨具を50種類以上試し、粉塵まみれになって試行錯誤を繰り返し、ようやく最適の加減を見つけた。
 食器からハイテクへ。新分野を得た手の技は今、携帯電話やパソコンの磨きに生きている。世界で販売1000万台を超えた「iPod」の鏡のように光るぴかぴかのボディーも、小林ら燕の職人が一つ一つ手で磨いているのだ。
「磨いた後も重さ、厚さの変化を抑えて」。無理な注文にも応えるらしいと聞いて、今では松下電器産業ソニーも「これも磨けるか」といって来る。「どれだけ資本があってもできない技術なんだ」。うれしくないといえばウソになる。

 指紋がつきまくるのが気になってしょうがないほどピカピカのiPodは、日本で磨かれていたんですね。
 ちなみに、小林さんをはじめとする燕の研磨職人たちは、現在「磨き屋シンジケート」というのを結成して、いろんなものを磨き続けているそうです。
 『デイリーポータルZ』では、こんな「作品」が紹介されていました。  
『ピカピカすぎて公道を走れない車』

日本の「ものづくりの技術」も、まだまだ捨てたものじゃないなあ、というお話でした。

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