琥珀色の戯言

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おちおち死んでられまへん〜斬られ役ハリウッドへ行く ☆☆☆☆

定年直前の斬られ役、ハリウッドデビュー!
15歳から47年、斬られ斬られて2万回の大部屋生活。定年直前にハリウッド映画の出演依頼が! 『ラスト サムライ』用心棒役の為、海外ロケに参加し…。涙と笑いの人生を語る感動ドキュメント。

 僕も含むごく一部の好事家は、あの『ラストサムライ』でトム・クルーズに常に黙って寄り添っていた「サイレント・サムライ」の姿に涙していたのではないでしょうか。「日本一の斬られ役」こと、福本清三さんがいきなりハリウッドデビュー、しかも、トム・クルーズ主演の超大作に! 『ラストサムライ』は渡辺謙さんの出世作となったわけですが、その一方で、ずっと「斬られ役」として日陰の存在だったひとりの老優の一世一代の大舞台でもあったのです。
 正直、この本よりも、第一作の『どこかで誰かが見ていてくれる〜日本一の斬られ役・福本清三』のほうが、ドキュメンタリーとしてはずっと面白いので、興味がある方は、ぜひそちらの方を先に読むことをオススメしたいのですが、この『おちおち死んでられへん』も、福本清三さんに思い入れがある人にとっては、非常に楽しめる作品です。

 一番印象に残っているのは、私がトムさんを武士の家に案内するシーン。私が先にあがって、そのあとをトムさんが続く。私はこの時、胸の奥がじーんとしましたわ。
 だって、そうでっしゃろ。
 このシーン、トムさんを私が案内するんでっせ。
 トムさんと私、ふたりだけですわ。ただ、歩いていく。
 ただそれだけのシーンなんやけど、これ、私にとってはものすごいことなんですわ。わかりますか。これまで私がやってきたことと言えば、スターさんとからんだシーンは立ち回りやないですか。それがただふたりきりで歩くんですわ。それも、世界のトム・クルーズと。
 5台のキャメラがトムさんと私を追うんでっせ。
 こんなこと、あってええんかいなって思いましたわ。あの時、私のなかでは、もし、編集の段階でこれらがすべてカットになってもええって思いました。私の映画人生のなかで、最高の思い出になるんやから。いや、そりゃワンカットでもあったらうれしいですよ。でも、いいんです、ワンカットもなくても、こんな幸せなことって、ないやないですか。
 いや、正直に言います。感激しました。
 たった10秒のカットかもしれまへんけど、5台のキャメラで撮ってますから、50秒もあるやないですか。
 ハリウッドの映画のキャメラを50秒もまわしてもらった、それだけで、私にとってはものすごいことなんやから。
 この貴重な思い出をみんなのおかげで作ってもらえただけでも、もう十分ですわ。

 映画のなかでは、本当になにげないシーンでも、役者さんやスタッフにとっては、こんなにいろんな思いがこめられているのだなあ、と僕はちょっと感動してしまいました。福本さんのような人が、きっと、映画を長年支え続けているのでしょうね。有名俳優や監督だけでは、「映画」は完成しないのです。

 この本、「カレー作り」の章なんていうのは、ちょっと蛇足っぽいというか、ネタ切れっぽい感じもするのですが、同じ仕事を続けるのに疲れた人とか、とにかく「面白い人」の話を読みたい人にはオススメです。

まずは↑から先に読んだほうが、より楽しめると思います。

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