琥珀色の戯言

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作家の誕生 ☆☆☆☆

作家の誕生 (朝日新書48)

作家の誕生 (朝日新書48)

[日販MARCより]
投稿少年だった川端康成大宅壮一。文豪夏目漱石の機転、菊池寛の才覚…。歴代文豪をまな板に載せ、ベストセラー誕生の秘密に斬り込む。作家を神聖視する文学史解釈を超えた、生身の作家たちの姿がここに。

 正直、『作家の誕生』というこの本のタイトルは、実際の内容の一部だけを誇張しているのではないか、要するに「看板に偽りあり」なのではないかという気もするのですが、それでもこの本が「作家」として「名声と生活の糧」を得るために苦闘していった「文豪」たちの姿を今までと違った切り口で描いたものであるというのは事実でしょう。
 猪瀬さんは、この本を『ペルソナ 三島由紀夫伝』『マガジン青春譜 川端康成大宅壮一』『ピカレスク 太宰治伝』の3冊の自著を踏まえて書かれているので、とくにこの本の後半部は「作家」の誕生、というよりは、この評伝で出てくる作家たちの話ばかりになっているのが残念ではあるんですよね。とくに太宰治の「心中事件」の顛末については、あまりにも猪瀬さん自身の「想像」を事実であるかのように書いているのがすごく気になりました。太宰治は、客観的にみて「演技的」な人間だと思うけれども、彼は自分でそれを「演技」だと認識しながらやっていたわけではないと思うので。
 しかし、この本を読んでみると、「文豪」たちも「不倫日記を書くことによって、さらに自己陶酔に陥っているブロガー」たちとそんなに変わりないのかな、という気もしてきますね。もっとも、「文豪」たちには、それで「食べていこう」としている分だけの「あつかましさ」があって、それこそがまさに「アマチュアとプロの差」だと言えるのかもしれません。

 あと、この本を読んであらためて感じたのは、「売れた本」というのは、必ずしも「文学史的意義のある本」として認識されていないのだな、ということでした。
 島田清次郎の『地上』とか、賀川豊彦さんの『死線を越えて』なんていう「大ベストセラー」、教科書には載ってないものなあ……

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