琥珀色の戯言

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のはなし ☆☆☆☆☆

のはなし

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内容紹介
伊集院光の魅力が詰まった一冊。こんなエッセイ集を、今まで誰も、読んだことも見たこともないはず。連載5年、構想4年、修正1年。伝説のエッセイ、ついに刊行! 爆笑!感動!鳥肌!の全82話。

伊集院光さんには、「あの体が大きくてちょっと暑苦しくてうるさい、パワプロ好きの芸能人」という程度のイメージしかなかったのです。でも、このエッセイを読んでみて、正直僕は後悔してしまいました。「ああ、もっとこの人のラジオを聴いたり、本を読んだりしておけばよかった!」と。エッセイを読みながら声を出して笑ってしまったのは久しぶりです(小説を読んで涙が止まらなくなることは、年とともに増えているのですが)。
この『のはなし』を読んでいて感じるのは、伊集院光という人の「正直さ」と「記憶力のよさ」なんですよね。とくに子供の頃のエピソードは「よくこんなこと覚えてるなあ!」と感心してしまいます。とくにすごいのは、その「出来事」を記憶しているだけではなくて、そのときの自分自身の心の動きも、かなり忠実に描写できていることです。こういう「子供の頃はこうだった」というような話って、大概、「簡略化」されたり「美化」されたしてしまうものなのですが、このエッセイでは、そういう「子供の頃の本心」まで、精緻に描かれているのです。

 子供の頃、中流家庭の我が家において晩御飯にうなぎが出るケースは多くなかったが、時々お袋がスーパーなどでうなぎの蒲焼を買ってきて作ってくれたうな丼が大好きで、「今日の晩御飯は何が食べたい?」と聞かれるとかなりの頻度で、「ウナドン!」と答えていた。
 そのリクエストは家計の状況に応じて採用されたり採用されなかったりな訳だが、いま考えるとあれは「うなぎ」が好きだった訳ではなく「タレのかかったご飯」が好きだったように思う。「それならそうといってくれれば何も高い蒲焼を買うこともなかったのに」とい母親はいうだろうが、「タレ飯」と「うがぎ」はセット販売のみだと思っていたのでしょうがない。

この話なんて、「ああ、僕もそうだった!」って、思わず頷いてしまいました。むしろ、うなぎの皮の見た目が気持ち悪くて除けてたりもしてました。

「お客さんとのやりとりが楽しい」って書かなければならないはずの『フリマの話』では、強引なおばちゃんんとの赤裸々なやりとりが容赦なく書かれ、「僕は絶対にフリマに出店するのはやめよう!」と堅く決心させてくれますし。
高尚になりがちな「作家のエッセイ」とは違って、まさにそこで伊集院さんが喋っているかのような語り口も魅力的で、これを読んでいると、『オールナイトニッポン』全盛期にたくさん出版されていた「深夜放送の本」を思い出してしまいます。たぶん、このエッセイの1ネタで、ラジオで喋れば5分から10分くらいのものでしょうから、いくらリスナーのサポートがあったとしても、1人で2時間の放送時間を埋めていくというのは、すごい「ネタ力」が必要なのでしょう。

それにしても、このクオリティのものを週3回も配信していたなんて、本当に凄いなあ、と。
実際はこの10倍くらいの数のエッセイから「面白いもの」「上質だと判断したもの」をスタッフが選んだものだそうなのですが、僕は逆に「うまくまとまらなくてグダグダになっちゃった回」を読んでみたくなりました。ラジオの深夜放送の魅力って、むしろ、そういう「グダグダ感」にあるような気もしますしね。

とにかく「面白いエッセイ」を読みたい人にはオススメです。伊集院光さんが大嫌いでさえなければ、かなり楽しめると思います。
けっこうシモネタが多いにもかかわらず読んでいて「下品」な感じがしないのは、噺家としての修業の賜物なのかな。

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