琥珀色の戯言

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東京奇譚集 ☆☆☆☆


東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

<内容紹介(新潮社のサイトより)>
奇譚(きたん)とは、不思議な、あやしい、ありそうにない話――。しかしどこか、あなたの近くで起こっているかもしれない物語――。

ふとした偶然に人生を導かれるピアノ調律師、息子を海で失った女、失踪人を探索するボランティアの男、「一生で出会う三人の女」の一人と出会った男……。「新潮」連載時から話題を呼んだ四作品に、奇想天外な書下ろし作品「品川猿」を加えた、東京で静かに暮らす人々に秘められた五つの物語。

村上春樹さんが語る、「普通の人々」が体験した不思議な物語の数々。いや、一歩引いて考えてみると、この短編集で、「本当に起こりそうなこと」が書かれているのって、『偶然の旅人』だけなんですけどね。
この本の内容が、ハローバイバイ関暁夫さんの「都市伝説シリーズ」とどこが違うのか?と問われると、「村上春樹によって書かれている」ということを除けば、内容にはそんなに違いが無いような気もしますし。
実は、今検索してみたら、この本、2年ちょっと前に単行本で読んだときに、ここに感想を書いていたんですよね(2005年10月29日付)。今読み返してみると、僕はこの本の内容に、ちょっと不満だったことが伝わってきます。「村上春樹のやっつけ仕事」的な感想です。
僕は以前から、村上さんの短編はやや消化不良な物語が多い印象があって、長編ほど大好きではなかったのですが、最近あらためて何作か読んでみると、「ああ、村上春樹の短編もやっぱりすごいな」と感じることが多くなってきました。

ところで、今回ちょっと気になったのは、「村上春樹は『恋愛』というものをどんなふうに考えているのか?」ということでした。この本には、「恋愛が主題」であるものは、「日々移動する腎臓のかたちをした石」しかないのですが、『ハナレイ・ベイ』の中に、こんな言葉が出てきます。

「女の子とうまくやる方法は三つしかない。ひとつ、相手の話を黙って聞いてやること。ふたつ、着ている洋服をほめること。三つ、できるだけおいしいものを食べさせること。簡単でしょ。それだけやって駄目なら、とりあえずあきらめた方がいい」

これが村上さんの「本音」というわけではないと思うのですが、僕自身が村上さんの小説を読んでいて感じるのは、「村上春樹の小説における男女の関係というのは、『運命的に惹かれあう』か、『全く接点がない』の2つしかない」ということなのです。「最初は全然意識していなかったはずなのに、いつの間にか惹かれあう二人」あるいは、「男(あるいは女)の後天的な努力によって、結ばれる二人」という関係が描かれることって、ほとんど無いですよね(いや、『ノルウェイの森』の主人公たちは、「努力」してナンパしてるじゃないか、と仰る向きもありましょうが)。
僕の勝手な想像なのですが、村上さんは、恋愛というものに関しては、あんまり「努力によって運命を乗り越えること」を信じていないのではないかと思うのです。いや、もしかしたら、「この世界で起こるすべてのこと」に対しても、同じようなスタンスなのかもしれません。

しかしながら、この『東京奇譚集』の主人公たちはみんな、「運命的な『喪失』をゆるやかに乗り越えようとしている」のですよね。そういう意味では、阪神淡路大震災後、『アンダーグラウンド』後の、「積極的に外界に触れていこうとしている村上春樹」のひとつの結晶が、この作品集なのではないでしょうか。
2年前は「なんだかすっきりしない、つまらない作品が多いなあ」と思った短編集なのですが、今回読み返してみて、なんだかすごく腑に落ちたような気がしたのは、僕もこの2年の間に、いろんなものを「失ってきた」からなのかな……

品川猿』のラストを読んでいたら、そんなに「悲しい」話じゃないはずなのに、泣けてきて困りました。

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