琥珀色の戯言

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土の中の子供 ☆☆☆


土の中の子供 (新潮文庫)

土の中の子供 (新潮文庫)

出版社/著者からの内容紹介
私は土の中で生まれた。親はいない。暴力だけがあった。ラジオでは戦争の情報が流れていた。重厚で、新鮮な本格的文学と激賞された27歳、驚異の新人の芥川賞受賞作。
主人公は27歳の青年。タクシーの運転手をして生計を立てている。親から捨てられた子供たちのいる施設で育ち、養子として引き取った遠い親戚は殴る、蹴るの暴力を彼に与えた。彼は「恐怖に感情が乱され続けたことで、恐怖が癖のように、血肉のようになって、彼の身体に染みついている」。彼の周囲には、いっそう暴力が横溢していく。自ら恐怖を求めてしまうかのような彼は、恐怖を克服して生きてゆけるのか。主人公の恐怖、渇望、逼迫感が今まで以上に丹念に描写された、力作。表題作に、短編「蜘蛛の声」を併録。

近年の芥川賞受賞作の中では、数少ない未読の作品だったのですが、文庫化を契機に読んでみました。
なんというか、「純文学らしい純文学」という感じです。虐待の描写や「その矛盾を自分でも頭では理解しているにもかかわらず、あえて痛みを求めてしまう」という場面など、正直あまりにも痛々しくて、こんなに薄い本でなければ、芥川賞獲ってなければ挫折してるだろうな、とか考えながら、なんとか読み終えました。
「読んで不快になるべき内容を、不快になるように描けている」という意味では素晴らしい小説ではあるのですが、読んでも「救いようがない」としか感じられないのもまた事実。芥川賞の受賞作には、「書いてある内容はありきたりなのだけれども、文体・表現の新しさ」で評価された作品と、「書いてある内容そのものがセンセーショナルであること」で評価された作品の2つの系統があるのですが、これはまさに後者のほうにあてはまる作品だと思います。けっしてつまらなくはないし、「現代を知るために読んでおくべき作品」なのかもしれないけど、この人の作品は、これ1作読んだらもうお腹いっぱい、という気分です。

僕がいちばん印象的だった場面。

「昔の知り合いで普通のサラリーマンだった人がいたんだけど、その人ね、いきなり仕事辞めて、何もしなくて部屋にばかりいるようになったの」
「へえ」
「それでね、痴漢になったのよ」
「痴漢?」
「うん。埼京線の朝と夜にね、ほとんど毎日。でも捕まって、何とかお金で済んだんだけど、その次には薬を打つようになって」
「それで?」
「お金足りなくなって、男相手に売春するようになって、それでも払えなくなって、腎臓を一つ売ったのよ」
「幾らだったんだろうな」
「知らないよ。それで身体を壊して入院して、薬物中毒がばれて刑務所に行ったの。今はどうしてるのかわからない」
「その先が知りたいな」
「何で?」
「その先に、そいつがどうなったのか。何ていうのかな、人間の最低なラインってどこなのかっていうかさ。どこまで行けるものなのかなって」
私がそう言うと、彼女は笑った。
「変な人って多いからね、そうなる必要もないのに、わざとみたいにダメになった人とかさ。その人もそうだよ。最後に会った時、馬鹿みたいに笑って満足そうだったし。こういうのは、何かきっかけがあったとか、環境のせいなのかな。それとも、ただ単にそうなりたかった、ていうだけなのかもしれないけど」
「そうなりたい?」
「うん。ダメになってしまいたいって感じ、何となくわかるでしょう? ほら、集団自殺するネズミっているじゃない、そういう本能みたいなのがさ、人間にもインプットされてるとか」

この「人間の最低ラインを覗いてみたい」とか、「ダメになってしまいたい感じ」というのは、僕にもわかります。
「自分からダメになることを望んで、そうなってしまった人」を何人も見てきましたし……

でも、今の時代に本当に必要なのは、「虐待した相手への一大復讐譚」ではないかな、という気も僕にはするんですよ。
モンテ・クリスト伯』のような……

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