琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

サクリファイス ☆☆☆☆


サクリファイス

サクリファイス

勝つことを義務づけられた〈エース〉と、それをサポートする〈アシスト〉が、冷酷に分担された世界、自転車ロードレース。初めて抜擢された海外遠征で、僕は思いも寄らない悲劇に遭遇する。それは、単なる事故のはずだった――。二転三転する〈真相〉、リフレインの度に重きを増すテーマ、押し寄せる感動! 青春ミステリの逸品。

 「2008年ひとり本屋大賞」は、この『サクリファイス』からのスタート。
 なんでこの本を1冊目に選んだかというと、「そんなに分厚くなくて、テーマもスポーツものだし読みやすいかな」と思ったんですよね。
 そして、その予想は見事に的中していたようです。

 僕はこの作品を読んで、今まであまり知らなかった「自転車ロードレースの世界」、ひとりの「エース」と「エースが勝つために捨て駒になることに徹するアシスト」に色分けされた世界、そしてそのなかでの駆け引きに、ものすごく惹かれてしまいました。
 インデュラインランス・アームストロングの名前くらいは僕でさえ知っていますが、彼らを栄光に導いたアシストたちの名前を知っている日本人は、ほとんどいないのではないでしょうか? 
 この作品は、「アシストする側の献身」を描くことだけに終わっておらず、「アシストされる側の心情」に踏み込んでいるという点でも、リアリティが感じられるのです。

 ただ、僕がちょっともったいない気がしたのは、この作品を「ミステリにせざるをえなかった」というところだと思うんですよね。ロードレースの場面が、ページをめくるのがもどかしいほどの臨場感に溢れていて、「もっと読みたい!」という気持ちにさせてくれる一方で、自転車の世界から離れているときの主人公とその元彼女(と袴田という男)はあまりにも「薄っぺらい」。
 この小説、「ミステリになってないミステリ」と恋愛関係の描写を全部削ぎ落として、「自転車レースを生業とする男の物語」に絞れば、『一瞬の風になれ』のような「青春スポーツ小説の金字塔」になっていたんじゃないかという気がしてなりません。「それじゃ売れない」のかもしれないけど……

 でも、ミステリ部分のこじつけっぽさを差し引いても、十分すぎるくらい面白い小説ですよ、これは。
 正直この分量で1500円(+税)というのはやや割高な印象なので、文庫になったらものすごく売れそうです。


ただマイヨ・ジョーヌのためでなく

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく

出版社/著者からの内容紹介
世界中の涙と感動を呼んだベストセラー、待望の邦訳刊行!!

人生は、ときに残酷だけれどそれでも人は生きる、鮮やかに。
世界一の自転車選手を25歳で襲った悲劇──睾丸癌。癌はすでに肺と脳にも転移していた。生存率は20%以下。長くつらい闘病生活に勝ったものの、彼はすべてを失った。生きる意味すら忘れた彼を励ましたのは、まわりにいたすばらしい人々だった。優秀な癌科医、看護婦、友人たち、そして母親。生涯の伴侶とも巡り合い、再び自転車に乗ることを決意する。彼は見事に再生した。精子バンクに預けておいた最後の精子で、あきらめかけていた子供もできた。そして、彼は地上でもっとも過酷な、ツール・ド・フランスで奇跡の復活優勝を遂げる──。

 ちなみに、↑のランス・アームストロング選手の自伝はとてもすばらしい本なので、興味のある方はぜひ一度読んでみてください。僕のオススメです。彼が癌から「復活」してツール・ド・フランスでゴールするシーンは、何度読んでも涙が抑えられません。
 しかし、この「ツールに勝ち、癌も克服した英雄」もその後ドーピング疑惑にさらされていて、超一流のアスリートがそのカリスマ性を死ぬまで維持していくことの難しさを考えずにはいられないのもまた事実なんですよね。
 マラドーナはいまさら「神の手」のことを後悔してみせたりするべきじゃないと思うし、貴乃花は「〜というかたち」をテレビでしつこく繰り返すべきじゃないと思うのだけれど、彼らだって、競技を引退したからといって何もしないで隠遁するわけにもいかないのでしょう。
 そういう意味では、やっぱりセナは「伝説」のままでいたかったのかな、というようなことを、つい考えてしまうのです。観客の勝手な思い込みだってことは、わかっているつもりなのだけれども。

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