琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

乳と卵 ☆☆☆☆

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「乳と卵」は、30代の女性が、大阪から上京してきた姉とその小学生の娘と過ごす3日間の物語。大阪弁のノリのよい語りで母娘の愛憎や肉体への違和感を描き出す。

 『文藝春秋』に全文掲載されていたものを読んだのですが、素直に「これは凄い小説だなあ」と感じました。いや、男である僕にとっては、女性が語る、生々しい「生理の話」というのは、興味深いとともに、かなり「引いてしまう」面もあったのですけど。
 僕はこれを読みながら痛感したのですが、とくに芥川賞の対象になるような「純文学」の価値って、「テーマの新しさ」よりも「文体の新しさ」にあるんじゃないでしょうか。この『乳と卵』の場合は、町田康さんっぽいところもあるのですが、少なくとも、「独自の文章のリズム」を持っている作品です。そして、クライマックスの台所のシーンは、選評で池澤夏樹さんが仰っておられたように「仕掛けとたくらみに満ちて」いましたし。
 ただ、「新しい文体」を持って登場した人というのは、その後自分の世界を構築していく人と「文体に飽きられる」ことによって内容の無さが露呈してしまう人との二極に分かれるような印象があります。もちろん、川上さんは前者だろうと思いますし、周囲からも今後の「文学」を担う存在として期待されていると思うのですが。
 僕にとっては、あまりに「生々しい女性像」すぎるところもあったのですが、最近の芥川賞受賞作のなかでは、『蹴りたい背中』と並ぶインパクトがある作品でした。

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