eno blog: そろそろゲームのことを語ろうか。第2回『リアルサウンド〜風のリグレット〜』
いろいろ毀誉褒貶があった、この『リアルサウンド 〜風のリグレット〜』なのですが、僕にとっては今でも忘れられない大好きなゲームなのです。だから、この飯野さんの話を読めて、本当に嬉しかったのですよ。
ストーリー
野々村博司は、小学生の頃、夏休みが終わったら転校するという隣の席の女の子と駆け落ちの約束をするのだが、待ち合わせの時計台に、その女の子は現れなかった。そして女の子はそのまま転校してしまっていた。月日は経ち、あの時の初恋の女の子、桜井泉水と偶然再会し、付き合う事になる。大学生になった博司は彼女に起こされ、彼女の会社の人事部長を紹介してもらうはずだったのだが2人で面接に向かう途中、彼女は突然地下鉄を降りてどこかへ失踪してしまう…。
僕がこの『リアルサウンド 〜風のリグレット〜』をはじめてやったのは、確か、仕事をはじめて2年目の夏のことでした。あの頃の僕は職場で精神的にも肉体的にも疲れ果てていて、人間関係もうまくいかず、夜遅くボロボロになって家に帰ると、明日が来るのが嫌で(って、24時を過ぎて家に帰る日のほうが、はるかに多いくらいだったんですけど)、ダビスタをだらだらとやり続けて夜更かしし、さらに翌日の仕事に響く、というような、まさに「ネガティブスパイラル」に陥っていたのです。
ようやく3日、土日込みで5日間の夏休みがはじまる前日の夜、僕は買ってきたばかりのこのゲームをサターンにセットしました。そのときはもう23時過ぎくらいだったのですが、とにかく夏休みに逃げ込めることが、僕はとても嬉しかったのです。
いや、嬉しかったというよりは、とにかくホッとした、というのが本音でした。
あのときは、あと1週間夏休みが先だったら、もうダメだったかもしれないな、と思っていたので。
「画面のないゲーム」を満喫するつもりで、僕は部屋を真っ暗にして、このゲームを聴いていました。
このゲーム、主人公・博司は失踪した恋人、泉水を探すのですが、その途中で、菜々という女の子に出会い、心惹かれていくのです。菅野美穂の声の可愛さもあり、僕もついつい「菜々狙い」の選択をしたくなったのですが、当時の僕は、「でも、恋人である泉水を裏切るなんて、人間としてあってはならないことだ。やっぱり、泉水に操を立てなくては!」とゲームの中でさえ自分に言い聞かせるような中二病患者だったので、ひたすら「その場にいない恋人に義理立てする」ような選択をしていったのですよね。
で、結果はどうだったかというと、見事にバッドエンド。どっちつかずの状態のまま、主人公はひとりぼっちになってしまいました。
僕がそのエンディングにたどり着いたときには、もう時計の針は26時をまわっており、翌日は友人と旅行に出かける予定があったにもかかわらず、僕はどうしてもそのエンディングに我慢ができず、もう一度最初からやり直しました。
こんどは露骨に「菜々狙い」の選択をしながら。
結果、空が少し白んできたころ、僕はハッピー・エンドのときに流れる、矢野顕子さんの『ひとつだけ』を聴くことができました。このエンディングは音楽とかセリフの間がとてもすばらしくて、僕の中では、映画『カリオストロの城』に匹敵するようなエンディングだと思っています。
何に感動したのか自分でもよくわからなかったのだけれど、僕はポロポロと涙をこぼしていたのです。全然泣くような話じゃないはずなのに(ただし、『ひとつだけ』は掛け値なしに「泣ける」歌ですが)。
この『風のリグレット』に関しては、「単なるラジオドラマ」というような評価の声も多いようですし、僕も今の年齢で、あるいは中学生のときにあのゲームをやっていたら、そういう評価だったかもしれません。
たぶん、『風のリグレット』って、大人にも子供にも面白くないし、恋愛経験豊富な人にも恋愛経験皆無の人にも面白くなかったんじゃないかなあ。
でも、今から考えると、『風のリグレット』って、選択肢そのものは少なかったけれど、僕にとっては、「ゲームの上とはいえ、気持ちが動いたらという理由で恋人を裏切ることを自分で選んだ」という点で、とても印象に残る作品だったのです。それは、「ラジオドラマ」では、絶対に味わえない感情でした。
『ドラゴンクエスト5』のビアンカとフローラの選択のときには、「あくまでもゲーム」だと思っていたので後でセーブしたところからフローラと結婚して二回目のエンディングを観ることに「良心の呵責」は感じなかったのですが、この『風のリグレット』には、「自分の心が動くところをはじめて見てしまった」という記憶があるんですよね。
その頃の僕は、自分では「裏切られる」ことはあっても、「裏切る」ことはないと思っていたし、恋愛に関してはそういう「型」に自分を嵌め込んで、がんじがらめになっていたんだと思います。
そして、それは恋愛にかぎらず、仕事でも(というか、当時は仕事のほうがはるかにキツイ状況だった)、「自分はこうであるべきだ」という理想像を高く掲げすぎていて、その理想にはるかに及ばない自分をすごく責めていたのです。
いや、もちろん、このゲームで、そういうものがすべてパッと見えて人生が明るくなったってわけじゃなくて、このゲームで「自分の気持ちに素直に菜々を選んでみたこと」というのは、ぼくにとっての「転換期」のひとつの象徴だったのではないかと、今になって感じているだけなのですけど。
実は、僕がこのゲームをちゃんとやったのはその日の夜だけで、あの『ひとつだけ』を聴いた時点で、僕にとってこのゲームは「終わり」になりました。
5つあるというエンディングのうち、結局2つしか見ることができず、泉水とヨリを戻すエンディングはあったのだろうか、と今でもときどき気にはなるんですけどね。
たぶん、「10人が遊んだら、そのうち6人は怒って投げ出し、3人はなんとなくエンディングにたどり着いてボヤき、1人は「一生忘れない」ゲームです。万人に薦められるゲームではないんですが、この駄文をここまで読んでくれているあなたには、ちょっと遊んでみてもらいたいな、と呟いて終わりにします。
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(ドリームキャスト版とサターン版しかないので、なんとか現行機種でも遊べるようになってもらいたいものです。
PSPなんてまさにこのゲーム向きのハードだと思うのですが、WARPとSONYのいきさつを考えると、ちょっとムリかな……)
リアルサウンド ?風のリグレット ― オリジナル・サウンドトラック
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