琥珀色の戯言

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漢方小説 ☆☆☆


漢方小説 (集英社文庫 な 45-1)

漢方小説 (集英社文庫 な 45-1)

出版社 / 著者からの内容紹介
薬も、癒しも効かない、あなたに贈る処方箋。
みのり31歳、独身。元カレが結婚すると知ったその日から、原因不明の体調不良になった。行き着いた先は漢方診療所。悪戦苦闘する女性をそこはかとないユーモアで描く、あなたのための処方箋。第28回すばる文学賞受賞作。

 「西洋医学」を生業にしている僕にとっては、正直、「そこまで『普通の医療』を敵視しなくても……」と言いたくなるところもあるのですが、世の中には、こういう「治療」を求めている人も多いのだろうな、というのも実感としては確かにあるんですよね。
 そして、この物語の主人公・みのりのような患者さんが混んでいる外来の最中に新患として受診してきたら、「ああ、また不定愁訴の人が……」と思ってしまうのも事実。

「ただ、他の医者とは違って一度もストレスについて聞いてこないところが、また惹かれるんだよね」
 これは本当だ。診察ではあんなに抽象的な話をするのに、精神面については一度も聞かれていない。検査データから一気に精神面に飛ぶ西洋医とは皮肉にも対照的だ。東洋医学において精神面はどこの扉に隠れているのだろう?
「東洋にはストレスという概念がもとからないんじゃない?」
 かなりの独断で茜ちゃんは言った。
「病名がないぐらいだからストレスもないんだよ。いいところだね東洋って」
 日本も東洋だとわかってて言っているのだろうか。でも、私たちは本当のところ、どっちの文化に住んでいるのだろう。坂口先生の診察のように東洋と西洋を臨機応変に使い分ける時代なのだろうけれど、大事なのは、「東洋にしろ西洋にしろ、病気は私の病気だから。先生の言うところの。私だけの」

 確かに、「科学的なはずの西洋医学」の現場で、「データやレントゲンに異常はみられないけれど、訴えが多い患者さん」に対して「ストレス」という言葉は濫用されているんですよね。そして、「ストレス」というすごく曖昧な概念があるからこそ、「病名をつけてほしい患者」と「原因がわからない医者」の双方が救われているという面はあるわけで。
 不思議なことに、「これはストレスが原因ですね」と言われて、「ストレスなんてありません!」と怒る人って、全然いないですし。
「ストレス」を忌み嫌う一方で、「自分がストレスを抱えている人間」であることを認めてほしいという面は、多くの人にあるみたいです。
 そもそも「ストレスというのは、全く無いというのもかえって良くない」なんて言われたりしますしねえ。
 もしかしたら、「ストレス」とう言葉が生まれる前までは、「ストレス」はこの世に存在しなかったのかもしれません。

 世の中には「病名」や「ストレス」をアイデンティティのよりどころにしているのではないか、と思われる人がいますし、この『漢方小説』は、西洋医学の医者からすれば、あまりにも偏見に満ちた作品のような感じもするのですけど、たしかに、30代前半くらいの人には、この話が「染みる」人がけっこういるのでしょうね。

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