琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

クローズド・ノート ☆☆


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 小学校の先生になりたいと願っている女子大生・香恵(沢尻エリカ)が、引っ越し先のアパートで前の住人が忘れていったらしい一冊のノートを発見した。それは小学校教師・伊吹(竹内結子)が綴った日記だった。読み進むに連れて香恵は、教師としての伊吹に憧れると共に、そこに綴られた伊吹の恋に大きな影響を受けていく。そしてバイト先に来た画家の石飛(伊勢谷友介)への想いを募らせていくのだが…。

 計算高い女とズルい男の「純愛」ストーリー。
 それが、この作品を観終えての僕の率直な感想でした。
 140分近くもある、けっこう長めの映画なのですが、そのわりには「薄っぺらい」んですよ内容が。

『クローズド・ノート』単行本の感想
以前書いた、↑の感想を読み返してみると、原作のときも「薄っぺらい」と感じていたのですが、この映画はさらに酷いことになっています。
僕が原作に感じていた魅力が、「万年筆への薀蓄と学校の先生という仕事の裏側」だったのですから、それが「映像化」されるのは難しいというのはわかりきっていたのですけどね。
原作を読んでいると、この映画版での主人公・香恵のあまりの「積極性」に目が点になってしまいますし、この作品を観ていてもどかしいというか納得できなかったのは、すべての展開が唐突で、僕を納得させてくれるような「理由」「きっかけ」が描かれていないことでした。
主人公の友人とその恋人とか、何のために出てきたのか全然わからないキャラもいるし、永作博美さんも「ただいるだけ」だし、この映画版の脚本はあまりに酷すぎます。

どうして香恵は、石飛のことが好きになったの?
「一目惚れ」っていうのあるのだろうけど、この映画、「人が恋に落ちる瞬間」というのが描かれていないようにしか見えないんですよ。
二人が出会ったと思ったら、次の場面では家に上がりこんできたり、お弁当を持ってきたり、「好きです」と告白してみたり。
少なくともこの映画の中では、「要するに、石飛の見た目がカッコいいから好きになったんだろ?」という「理由」しか思い浮かばない……
原作では、もうちょっとそのあたりの「魅かれていくプロセス」がキチンと描かれていたと思うのですが、この映画版では、なんかこう香恵の「押しかけ恋愛」と、それをうまくはぐらかして愉しんでいるプレイボーイ・石飛、というふうにしか観えなくて。
あのスピーチの場面では、思わず、「香恵、KY!」と呟いてしまいました。あれはあくまでも公の場だろ……

竹内先生の伊吹先生は、期待通りの良い雰囲気でした。
この映画の中で唯一かつ最大の見どころは、「竹内さんの先生っぷり」だと思われます。
しかしながら、原作に比べると、伊吹先生のパートも「先生の仕事の裏側」や「普通の人間であることと、『教師』として生きていくことを両立するつらさ」は伝わってこず、単なる「良い先生の話」と「恋の話」で終わってしまっているんですよね。

以下、原作の感想から。

 僕にとって、この作品で「魅力的だ」と感じたところは、万年筆についての薀蓄と真野伊吹先生の日記のなかの「先生としての仕事について書かれた部分」だけでした。それを楽しみに読んでいたんですけど、後半は先生の恋愛話メインになってしまっていて、かなりがっかりです。いやほんと、自分が大人になって、「先生」なんて呼ばれる仕事についてみてはじめてわかったのだけど、昔、僕たちが「先生」と呼んでいた人たちも、みんな普通の人間で、いろいろと試行錯誤したり落ち込んだりしながら、大変な仕事をやっていたのだなあ」とあらためて感じました。「先生の目からみた自分が受け持っているクラスの風景」のところだけは、本当にすばらしかったのです。

ほんと、「先生」だって落ち込んだり悪酔いしてクダまいたり不倫しちゃったりするんだよね。子供の頃は、そういうのは「汚い」ことだと思ってたけど、自分がその立場になってみると、「あの頃の先生たちも、みんな『人間』だったんだなあ」ということがよくわかります。
それでも、教壇の上では常に「子供たちの手本となるような大人」でいなければならないっていうのは、すごく辛い仕事ですよね。
子供の「理想」っていうのは、大人よりも高くて、厳しいものだから。

この映画版の『クローズド・ノート』では、こういうところがほとんど伝わってこない、「冗長で押し付けがましい恋愛映画」になってしまったのは残念でしたし、正直「香恵いらないんじゃないの?伊吹先生の話だけのほうが良かったかも……」という感じでした。

僕はこれを観終えて思ったんですけど、沢尻エリカの「別に……」の理由って、単に「彼女がこの映画(あるいはこの映画での自分)を気に入っていなかったから、じゃないのかなあ。「主役」だけど、竹内結子さんの存在感に、圧倒的に負けてるし。
それがあの舞台挨拶でのコメントの「真意」であるとするならば、沢尻さんはすごく誠実な人なのかもしれませんね。

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