琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

2008年度「ひとり本屋大賞」発表

本屋大賞(公式サイト)

 「本屋大賞」のノミネート作を僕が独断と偏見でランク付けするというこの企画。今年もなんとか間に合いました。
 というわけで、とりいそぎ、id:fujiponによる「2008年度ひとり本屋大賞」の発表です。こいつセンスないなあ、と苦笑されるなり、本物とのギャップを比較するなりしてお楽しみいただければ幸いです。


第10位 八日目の蝉(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080217#p1

八日目の蝉

八日目の蝉

でもね、僕はそういう「負のスパイラル」を「人間の弱さ」とか「それでも強く生きる」とかいうふうに美化してほしくないんだよね。そういう人にさんざん振り回されてきた人間としては、お前みたいなやつは、いっそのこと死んでしまえ、とか言いたくなる。

正直、この小説に関しては、僕がこういう話は「苦手」だということに尽きるような気がします。


第9位 カシオペアの丘で(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080330#p2

カシオペアの丘で(上)

カシオペアの丘で(上)

カシオペアの丘で(下)

カシオペアの丘で(下)

癌の症状についての描写なんかはすごくリアルに思えるし、心理描写もすごいなあ、としか言いようがないのだけれど、その一方で、ちょっとおせっかいな登場人物が多すぎる小説だなあ、と苛立つ場面も多かったのです。僕の実感として、「病気」っていうのは、もっとプライベートなものだし、川原さんやミウさんの介入に対しては、「人の死に群がって、自分が救われようとするなよ……」としか思えないのです。

 人は、ゆるされたり、誰かを救ったりするために「死ぬ」わけじゃないだろう、それは「神の死にかた」じゃないのか?と。


第8位 ゴールデンスランバー (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080317#p1

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

 伊坂さんの「反権力」「ちょっとひねくれた青春」「伏線がちりばめられたミステリ」という3本柱がうまく配されている作品ではあるのですが、正直、この長さの本でこの内容というのは、ちょっと物足りない印象です。なんというか『魔王』をつまらなくしている調味料(伊坂さんの「政治」や「マスコミ」に対する信条)を今回も入れすぎてしまっているなあ……と。

 純粋に「面白い本」だし、「大作」であることは間違いないのですが、「集大成」であるのと同時に、現在伊坂さんが嵌っている「袋小路」を痛感させられる作品のような気がしました。

↑の感想に付け加えることはとくにないかな、と。


第7位 鹿男あをによし (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080407#p1

鹿男あをによし

鹿男あをによし

結果的には、「先にTVドラマを観てしまったこと」が、この作品に対する僕の評価をちょっと下げてしまったかもしれません。

いや、この『鹿男あをによし』って、本当に「良質のエンターテインメント」だと思うんですよ。

ただ、TVドラマのほうが全てにおいて優れているのではないとしても、先にあちらを観てしまうと、この小説版のキャラクターはやっぱり「ドラマで演じていた人」の姿になっちゃうんですよね。

なんとなく、「TV版に負けちゃったかな」という感じでした。
本当は、ドラマのスタッフがうまく映像化した、ということなんでしょうけど。


第6位 私の男 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080206#p1

私の男

私の男

「現実の自分には絶対できない疑似体験」ができる、とても素晴らしい小説であるとは思います。ただ、僕にとっては、やっぱりこのテーマはあまりに「重い」というか「『娯楽』にはなりえない話だし、読むことにあまり意義を感じられなかった」のも事実。

「とても良い小説」だと思うけど、「苦手」なんですよね粘液系って。


第5位 有頂天家族(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080321#p1

有頂天家族

有頂天家族

 『有頂天家族』は、とても優れた娯楽作品だと思います。森見作品の特徴である、終盤に一気に畳み掛けるような盛り上がりは素晴らしいです。きっとこれが伏線なんだろうな、と思いつつも、実際にそれが登場すると、「待ってました!」と言いたくなるんですよねえ。

「面白きことは良きことなり!」

 「物語」としては、むしろこちらのほうが「完成度が高い」気もしますが、『夜は短し歩けよ乙女』の後に読むと、ちょっと「既読感」があるのは否定できないんですけど。

 導入部があまりにも「いつもの森見さん」なのは、ちょっと勿体ないような気もしますが、確実に「進化」している感じはします。


第4位 映画篇(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080303#p1

映画篇

映画篇

ローマの休日』をテーマにした時点で、この物語は「勝ち」のような気もします。それまでの4篇では、どちらかというと、「世間にうまく適応しきれない、映画好きの人々」の話だったのですが、最後の5篇目の『愛の泉』で『ローマの休日』が出てくることによって、この小説は、「映画というひとつの世界を共有して生きてきた、多くの人々の物語」になったのです。でも、いきなり『ローマの休日』では、あまりにありきたりな物語になってしまったはず。

 最近の小説のなかでは珍しい、正統派の「現実に立ち向かう勇気が湧いてくる物語」として、「ひたすら生きにくさを描いた小説」に飽きてしまった人たちにお薦めしたい作品です。

 今回金城さんの作品を初めて読んだのですけど、この作品はすごく良かったです。元気が出ました。
 

第3位 サクリファイス(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080202#p1

サクリファイス

サクリファイス

 この小説、「ミステリになってないミステリ」と恋愛関係の描写を全部削ぎ落として、「自転車レースを生業とする男の物語」に絞れば、『一瞬の風になれ』のような「青春スポーツ小説の金字塔」になっていたんじゃないかという気がしてなりません。「それじゃ売れない」のかもしれないけど……

 でも、ミステリ部分のこじつけっぽさを差し引いても、十分すぎるくらい面白い小説ですよ、これは。

 正直この分量で1500円(+税)というのはやや割高な印象なので、文庫になったらものすごく売れそうです。

 僕はあまり本を読まない友人に「本屋大賞候補作のなかで、何かオススメの本ある?」って訊かれたら、迷わずこの『サクリファイス』を勧めると思います。「読みやすさ」はこの10作のなかでは1位だし、「面白さ」もかなりいい線いっているはず。あえて言うならば、「本を読んだなあ!っていう満足感」が、ちょっと足りないのかな。


第2位 悪人(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080328#p1

悪人

悪人

これはまさに、吉田修一さん「渾身の一作」だと思います。僕たちがワイドショーで採り上げられているのを観て、「まあ、結局のところ、殺すほうも殺されるほうもバカなんだよね」と一蹴してしまうような「事件」について、作者は当事者の綿密な心理描写で、その「背景」を浮かび上がらせていきます。確かにこれを読んでいくと、僕たちは誰でも「悪人」になる可能性があるのではないか、と考えずにはいられません。

 「今の時代に普通に生きている人」が拭いきれずに抱えているせつなさみたいなものが丁寧に描かれていて、本当に引き込まれる傑作です。

 ただ、僕自身の感覚としては、この本があまりに「『悪人』寄り」であることに、ちょっと引いてしまったのも事実なんですよね。大部分の人は、「寂しいから」「世の中にうまく適応できないから」と言って、出会い系で売春したりしないし、人を殺したりもしません。彼らの「気持ち」はわかるとしても、彼らの「行為」に僕は共感できないんですよ。

僕はあまり「好きじゃない」のだけど、とにかく「圧倒される小説」でした。



第1位 赤朽葉家の伝説(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080403#p1

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

 荒唐無稽なファンタジー小説のように見せかけて、この作品は、「昭和のはじめから平成の現在までの女性の生きかた」というのをけっこう象徴的に描いているんですよね。そして、桜庭さんは「人」を書くふりをしながら、「昭和から平成という時代の日本の『旧家』や『地方都市』の盛衰」を描きたかったのではないかなあ、と僕は感じましたし、この小説での主な登場人物の「死」の場面の多くが拍子抜けするほどあっけないのは、この小説では、「人」はあくまでも物語というパズルのひとつのピースでしかないのだ、ということなのかもしれません。登場人物に思い入れてしまう読者としては、それがちょっとだけ「物足りない」気がするのも事実です。

 うーん、「1位」なのに微妙な感想だなあ……
 正直、「この中では相対的1位」という感じなんですけどね……
 でも、「この小説の面白さがわかる自分に一票入れたくなるような作品」かな、とも思います。


【2008年「ひとり本屋大賞」の総括】
率直に書くと、今回はまさに「どんぐりの背比べ」という感じでした。
なんでこれが候補に?と言いたくなるような作品が無かったかわりに、「この本が読めて良かった!☆5つ!」という作品もなかったんですよね。
候補になった作家も、「いつもの『本屋大賞』の顔ぶれ」ですし。
なんかこう、「残念直木賞」と化しているというか、「書店員さんたちによる好きな作家の人気投票」と化しているというか……
この賞が始まったときの概念からすれば、もっと「こんな本があったのか!」「こんな作家がいたのか!」と読者を驚かせるような候補作がノミネートされてもらいたいな、と思うんですよ。
「こんな本、お前ら素人じゃ絶対に手に取らないだろ!」という「挑戦状」を叩きつけて欲しかった。
書店員さんの「大好きな森見さんだから」「応援している伊坂さんだから」というような気持ちもわかるのですが、「みんなが知らないマニアックな作家の隠れた名作を世に出してやる!」あるいは、「文学賞なんか絶対貰えないような作品をアピールしてやる!」という「冒険心」を感じたい。
そういう意味では、『東京タワー』への授賞なんて、今から考えたらすごくエポックメイキングだったのかもしれません。あのときは、僕も「あんな冗長なお涙頂戴小説に?」なんて思ったんですけどね。

もう、本屋さんには「隠し玉」は残ってないの?


最後に、「本屋大賞」(公式)の僕の予想を書いておきます。
第1位:有頂天家族
第2位:私の男
第3位:ゴールデンスランバー


でも、これが本当に的中してたら、僕はちょっと悲しい。

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