琥珀色の戯言

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優しい音楽 ☆☆☆


優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1)

優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1)

出版社 / 著者からの内容紹介
駅のホームでいきなり声をかけられ、それがきっかけで恋人になったタケルと千波。だが千波はタケルが自分の家族に会うことを頑なに拒む。その理由を知ったタケルは深く衝撃を受けるが、ある決意を胸に抱く―表題作「優しい音楽」。現実を受けとめながら、希望を見出して歩んでゆく人々の姿が、心に爽やかな感動を呼ぶ短編集。

 ああ、瀬尾まいこさんだなあ、という感じの短編集。
 心温まる「いい話」なのですが、表題作では、「優しさ」にはある種の「痛み」みたいなのが伴っているのだ、というのが伝わってきて、単なる「いい話」だけでは終わっていないのもいつも通りです。
 瀬尾さんの作品というのは、要するに「小説としての前衛性」みたいなものを目指しているのではなくて、「なんとなく疲れていて、ホッとできるような話を読みたい」「日常を変えたいけれど、変えるだけの勇気もない」ような大人たちにとってのちょっとした「オアシス」みたいなものなんでしょうね。だから、ものすごく悪い人は出てこないし、驚くような「どんでん返し」も存在しない。僕などは「世間にこんな優しくて穏やかな人ばっかりなわけないじゃないか」と反発したりもします。
 でも、こういう小説を必要としている読者というのは、けっこうたくさん存在しているのでしょう。

 ところで、この本の「解説」にも書いてあるのですが、瀬尾さんって、「書き出しがものすごく上手い作家」ですよね。

 いつも千波ちゃんは僕が家に行くことをとても嫌がる・送っていくという僕の申し出はたいてい拒否されるし、それでも無理矢理家の前まで送っていくと、千波ちゃんはあっけなくさよならを告げ、そそくさと家の中に消えてしまう。そろそろ家族に紹介してくれてもいいんじゃないかと思うのだけど、いつもうまくかわされる。 『優しい音楽』

 まったくもって私は都合のいい女なのだ。いつもなんだかんだと面倒なことを推しつけられる。今まで、私が平太の頼みを断れたことは一度としてない。うまい理屈をこねて、押したり引いたり泣きついたり。いろんな手段を以ってして、平太は諸々のことを私に押しつけてきた。
 だけどだ。いくらなんでも、これはないだろう。 『タイムラグ』

「拾ってきちゃった」
 玄関まで出迎えにきたはな子が、俺の姿を見るなり言った。 『がらくた効果』

 この本に収録されている3篇の「書き出し」を並べてみましたが、それぞれ、「なぜ家族に紹介してくれないの?」「それってどんな面倒なこと?」「何を拾ってきたの?」と、これだけでその「答え」が気になるんですよね。ほんと、小説の「書き出し」って大事です。

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