琥珀色の戯言

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人生ベストテン ☆☆☆☆


人生ベストテン (講談社文庫)

人生ベストテン (講談社文庫)

出版社 / 著者からの内容紹介
直木賞受賞第一作
13歳のあの夏から、私に会いにきたひとは?
どこにでもいる男たちと女たちの<出会い>が生みだす、ちいさなドラマ。おかしくいとしい6つの短篇。
「床下の日常」 水漏れ工事に向かったマンションで、陰気な人妻から食卓に誘われたぼくは
「観光旅行」 恋人と訣別するためイタリア旅行中の私は、観光地で母子喧嘩に巻き込まれ
「飛行機と水族館」 アテネ帰りの飛行機で隣り合った泣き女が、なぜかぼくの心にひっかかり
「テラスでお茶を」 男とのねじくれた関係を刷新すべく、中古マンション購入を決意した私だが
「人生ベストテン」 40歳の誕生日を目前に、恋すらしていない人生に愕然とした私は
「貸し出しデート」 夫以外の男を知らない主婦の私が、若い男を借り出してデートに挑むが

 角田光代さんらしい、「ちょっと傍迷惑な30代女性たち」が主役の短編集。
 たぶん、僕が20歳くらいのときにこの本を手にとっていたら、退屈で最後まで読めなかったのではないかと思います。
「どうして、こんな感じ悪い女たちの何も起こらないエピソードを読まなければならないんだ……」って。
 でも、30代も後半を迎えた今、この小説を読んでみると、「ああ、30代の現実って、こんなものだよな……」って頷ける話ばかりなんですよね。角田さんの現実を見つめる目の鋭さと、そういうふうにしか生きられない人たちへの温かさが伝わってきます。
 40年くらい生きていれば、男も女も、この短編集で描かれているエピソードのうちどれかひとつくらいは「自分の体験とシンクロしてしまう」ものがありそうです(僕も『飛行機と水族館』を読みながら、ちょっと昔のことを思い出しました)。

表題作『人生ベストテン』で、主人公の女性が、中学校の同窓会で出会った「初恋の人」に語った、こんな言葉がありました。

「けど、今、私だけは中学生のときとおんなじに、なーんにも持ってないんだよね。なんにもやらずに、なんにも持たずに40歳になろうとしているわけよ。仕事はあるし、希望した部署にいるし、部下だっているし、結婚しようと言ってくれる恋人もいる。でもね、私はなんにもしてないし、なんにも持ってないの。そのことを自覚しているの。自覚して、この先も自覚していくべきだ、って思ってるの。結婚なんかしちゃったら、自分は何かしたと錯覚すると思わない? そして実際、何か持ってる気になっちゃうのよ。ねえ、今日のみんな、そんな人ばっかりだったじゃない。芸能人の名前、夫の仕事、会社の名前、子どもの成績、子どもの数、新築の家、通勤時間。何かしてきて、何か持っているんだって、みんな疑いなく信じてる。信じてるうちに、持ってないはずのそれらは本物の荷物になっちゃうんだと思う。だからみんな、あんなふうに中年っていうぬいぐるみかぶったみたいに見えるんだと思うのね。私はなんにもやっていないということを自覚していたい。結婚したら、そういうことわかんなくなるのがこわい。持ったふりをして、持ったつもりになったものを守って生きていくことがこわい」

 結婚して1年になる僕にとっては、ものすごく理解できるような、それでいて、「そういう錯覚そのものが結婚生活であり、人間の『生き甲斐』みたいなものじゃないのか?」と反論したくもなった言葉でした。
 20代後半から40代くらいの「自分の人生って、つまらないなあ」と感じることが多い人には、お薦めしたい本です。
 あと、これを読むと、「自分の『人生ベストテン』」を、つい考えてしまいますね。

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