琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

それでもわたしは、恋がしたい 幸福になりたい お金も欲しい ☆☆☆


それでもわたしは、恋がしたい 幸福になりたい お金も欲しい

それでもわたしは、恋がしたい 幸福になりたい お金も欲しい

内容紹介
現状に満足していない人へ。今日より明日、よりよい人生を送りたい人へ。身も心もスッキリする村上龍の悩み相談。

「顔も頭もたいしてよくない私ですが、玉のコシにのれるでしょうか?」「親が唯一の財産である実家を売り払ってしまい不安な毎日です」「転職活動中、連続で20社も落とされました。年をとるデメリットばかりが増えることにいらだちます」などの質問を50集めました。仕事、お金、社内の人間関係、恋愛、結婚、転職…。女性のバカバカしくも切実な悩みに村上龍がハッキリと答えます。読んだ後は、自分の状況やなすべきことが整理され、爽やかで前向きな気持ちになります。雑誌「SAY」連載時から大好評だった痛快エッセイ!

 なんというか、これほど「身も蓋も無い人生相談」というのもけっこう珍しいのではないかと思います。
 「勝ち組」村上龍が、「スイーツ世代」の20〜30代女性の「自分さがし」的な悩みを、バッサバッサと遠慮なく斬りまくっています。
 たぶん、これを読んでいちばんスッキリするのは、30代〜50代の「スイーツ世代」を日頃苦々しく感じている男たちなのではないかと。
 ただ、女性誌連載中から人気だったということですから、実際は、こういう「身も蓋もない回答」を提示してくれる人って、現実にはほとんどいないか、いても、彼女達が耳を貸そうとしていない、ということなのでしょうね。
 この本を読んでいると、村上龍さんの回答というのも、変幻自在・臨機応変というか、ある意味、「その場しのぎ」的な感じがするところもけっこうあります。もちろん、質問内容や年齢から、「質問者にあわせている」のかもしれませんが。

Q:何のとりえもないけど、親の資産でどうにかなるだろうと思っていました。何年かたてば、世田谷の土地はすごいお金になったはずなのに……。(31歳・フリーター)

↑の質問には、このような回答をされてますし、 同じような、「何のとりえもない女性」(こちらが少し年上)には、こんなふうに答えておられます。

Q:これまでしてきたのは補助的な仕事ばかり。年収も低く、結婚相手もとくにいません。同世代の女性と大きな差がついてしまったような気が……。(35歳・契約社員

村上龍さんの回答)

 僕の妹は結婚して北海道の農家に行きました。農業は大変な仕事だけど、雄大な自然の中で暮らしています。昔からのんびりとした子だったんです。親に「勉強しろ」と言われても全然しないし、お風呂なんか2時間ぐらい入っている。僕はよく父親から「溺れてるかもしれないから見て来い」なんて言われました。そういう人を見ていると、妙に安心して気持ちがよくなることがあります。せこせこしない、素敵な生き方だと思うんです。
 一方で『カンブリア宮殿』で女性経営者と会ったり、企業の広報や秘書の仕事をしている女性を見たりすることがあります。しゃきしゃきしていて、仕事ができそうな感じがします。きっといい大学を出たり、アメリカに留学したりしてたんだろうな、と思う。でもそういう人たちが圧倒的に幸せで、のんびり暮らしてる人が不幸せだとは思えないのです。
 現代の社会を生きていく上では、女性にも男性同様、職業スキルが必要だと言われる。それは否定できないと僕も思いますが、ときには視点を変えることも必要ではないかという気がします。
 35歳まで何もしないでのんびり過ごしてきたというのは、もしかしたら「追いつく」とか「追い越す」ということに、そもそも向いてないんじゃないですか。競争に向いてない人というのもいるんです、いまから焦って学校に行けばいいというものでもないし、焦る人だったら、もっと若いうちに焦ってるでしょう。
 これまで案外ハッピーだったのかもしれない。そういえば自分はこういうときに幸福を感じる、というのがあれば、それでいいじゃないですか。「取り残された」とは思わないことです。「自分には何もない」ではなくて、「自分はのんびりと生きる人間なんだ」と思って、ちょっとペースをゆるめて考えてみてはどうでしょうか。これからのことを考えると、貯金くらいはあったほうがいいかもしれませんが。

 どちらかというと、後者の回答のほうが、僕は好きです。
 ただ、この後のほうの質問者の最大の問題点は、「競争心も乏しいし、競争にも向いていない」にもかかわらず、「自分が競争をしていないことへのコンプレックスを捨てられない」ことなんですよね。いくら相談相手が村上龍さんでも、彼女はたぶん「あきらめきれない」のではないかなあ。
 そうは言うけど、村上さんは人気作家で社会的地位も収入もある「勝ち組」だからねえ……
 というような反発を感じてしまうのは、やはり僕が「男」だからなのでしょうか。

 とりあえず、ここに引用した質問・回答を読んで「面白い!」と感じた人は、手にとってページをめくってみる価値はある本だと思います。30代〜50代くらいの男性には、「生意気な女性たちが村上龍さんに罵倒されているのを読んでスッキリできる本」(しかしながら、本当は男性のほうが、この村上龍さんの回答に「思い知らされる」ところは多いような気もしますが)、20代後半〜30代女性には、「周囲の『大人の男』たちが教えてくれない、身も蓋もない現実」を教えてくれる本」としてオススメしておきます。
 これで1200円(+税)は、ちょっと割高ではありますけどね。

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