琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』 ☆☆☆


『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』公式サイト

あらすじ: 白い魔女に勝利してから1年。現実に戻ったペベンシー4兄妹は、角笛の音に導かれ再びナルニア国へと舞い戻ってきた。しかし、この国の時間ではすでに1300年が経過しており、平和で美しい魔法の国は暴君ミラースに支配されていた。荒れはてたナルニア国を目にした4兄妹は、この国の王位継承者であるカスピアン王子(ベン・バーンズ)と出会う。(シネマトゥデイ

 公開2週目の金曜日のレイトショーで、客入りは30人くらい。
 2時間半近い長尺なのですが、まあ、最後まで飽きずに観られました。娯楽映画としては、第一作よりも優れているのではないかと。
 『ロード・オブ・ザ・リング』もそうだったのですが、シリーズものの第1作って、どうしても「背景説明」に時間をとられてしまうところがあるので、ちょっとかったるかったり説明が長かったりするものですから、2作目のほうが 面白く作りやすいのかもしれません。

 ただ、僕はもう大人なので、この映画のストーリーに関しては、あんまり感情移入できなかったんですよね。
 というか、(原作はさておき)この映画でのカスピアン王子はあまりにも無能・無策・無反省。自分の立場に対する責任感が皆無なのに、プライドと色気だけは人一倍。自分の都合で仲間を大勢犠牲にしていることへの悲痛さは伝わってこないのに、「自分は素晴らしい王になる」と口だけは達者。なれるわけねーだろ。「お前バカか!」と僕は何度も小声でつぶやいてしまいましたよ。
 僕がテルマールの民だったら、王としてはミラースのほうがはるかにマシだと思うんじゃないかと。
 そして、ペベンシー4兄妹、とくにピーターの無成長っぷりも際立っています。結局お前らほとんど役に立ってないじゃん。スーザン趣味悪すぎ!

 この作品って、僕には『ロード・オブ・ザ・リング二つの塔』の劣化コピーにしか見えなかったんですよね。
 最後のほうは、「ガンダルフはまだか!」とずっと苛々してしまいましたし(注・ネタバレになりますが、ガンダルフは出てきません)。
 まあ、『ロード・オブ・ザ・リング』は、「冥王サウロンと闇の軍勢」という「絶対悪」を設定しているので、「登場人物はみんな心が弱いけれど善性を持っている」という『ナルニア』よりも、はるかに「色分けがしやすい作品」ではあるのでしょう。

 ストーリー的にはカスピアン王子と4兄弟に石を投げたくなるシーン満載ですが、この映画、ナルニアの風景はすごく美しいです。『ロード・オブ・ザ・リング』未体験のお子さまには、それなりに楽しめる映画なのではないかと。動物もたくさん出てきますしね。
 それにしても、ベン・バーンズというカスピアン王子役の役者さんを売りたいっていうのはよくわかるんだけど、この役では、かえって逆効果なんじゃない?


 以下ネタバレ感想です。未見でこれから観る予定の方は、先に作品を観てからお読みください。

 本当にネタバレですよ!!


 それにしてもカスピアン王子ってダメすぎ。そしてピーターも無能すぎ。
 物語中盤のテルマール人たちの城への夜襲の際に、カスピアン王子はミラースの寝室に忍び込んで、ミラースの喉元に剣を突きつけるところまでいくのですが、なぜか踏ん切りがつかずに妻に撃たれて撤退。
 そのせいで作戦のタイムスケジュールが大幅に狂ったにもかかわらず、ピーターが作戦を強行したため、ナルニアの軍勢の半分は城内に取り残されて虐殺されてしまいます。
 いや、普通だったら、あのシチュエーションでこんなダメな指揮っぷりだったら、ナルニア軍内でクーデターが起こるか、もっと不満の声が上がってしかるべきでしょう。カスピアン王子って、ナルニアの人たちにとっては、いきなり銀行から派遣されてきた取締役みたいなものなのだから。そんな状況下にもかかわらず、カスピアンとピーターは内輪揉め。そもそも、ナルニアの人たちって、どうしてあんな王子やピーターを信じようと思うのだろう?僕だったら絶対にカスピアン王子をミラースに突き出しますよ。
 だいたい、あんな一騎打ち、まともに受けるほうがおかしい。テルマール軍にとっては、ナルニア軍は「異形のエイリアン」みたいなものなんだから、騎士道も何もなかろうよ。ミラースは、そのくらいの空気は読めるキャラだろ……普通、自分に男の子が生まれたその日にあわてて王子を暗殺する必要はないとは思うけどね。
 そして、クライマックスの大逆転劇では、ついにというか、やっぱりアスラン登場!僕はアスラン好きだからいいんですけど、あの森の樹軍団、本当に「うわー『ロード・オブ・ザ・リング』だ!」という感じです。これなら最初からアスランさえいればいいんじゃない?王子と4兄弟の業績って無謀な作戦でナルニアの人たちに多大な犠牲を強いたことだけだろ、と。そもそもアスランは、こんな状況になるまでナルニアの情勢をスルーしてたのかよ……そりゃあ、「見捨てた」って言われてもしょうがない。尻尾まで生やせるのかよお前、もしかしたら、本当にみんな生き返らせたりもできるんじゃないか?やらないだけで。
 ラストも、一応ハッピーエンドっぽく描かれていますが、あの後ナルニアでは、おそらく人間とナルニア勢力との泥沼の内戦が起こるはずです。
 だって、あの夜襲作戦と砦の攻防では両陣営にかなりの犠牲者が出ているはずで、当然、犠牲者の家族や友人・知人もたくさんいるでしょう。そんな中で、いきなり「仇敵と共生せよ!」といわれても、そんな簡単に「はいそうですか」とは言えないよね。みんな「向こう」に行っちゃえばいいんだろうけどさ。

 僕は本当に、アスランと4兄弟とカスピアン王子に振り回され、多大な犠牲者を出したナルニアの人たちがかわいそうでなりません。4兄弟の「人間的成長」のために、何人死ねばいいのか、と。
 まあ、映画としては、そんなこといちいち考えずに「ネズミかわいい〜」「ナルニア綺麗〜」と素直に観るのがいちばん「正しい」のではないかと思いますけどね。

アクセスカウンター