琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

つっこみ力 ☆☆☆☆


つっこみ力 (ちくま新書 645)

つっこみ力 (ちくま新書 645)

世の中をよくしていくために、「正しい」議論をしていこう!ってそれは大いにけっこうですけど、でもその議論、実は誰も聞いてなかったりなんかしてません?ちょっと、エンターテイメント性に欠けてない?そこで本書でおすすめするのは四角四面な議論や論理が性にあわない日本人におあつらえ向きの「つっこみ力」。謎の戯作者パオロ・マッツァリーノによる本邦初の「つっこみ力」講演(公演)会、おせんにキャラメルほおばりながら、どうぞ最後までお楽しみくださいませ。


第1夜 つっこみ力とはなにかもしくはなぜメディアリテラシーは敗れ去るのか
(愛の章―わかりにくさは罪である 笑いの章―つっこみ力の真髄 勇気の章―権威へのつっこみ)
幕間 みんなのハローワーク―職業って、なんだろう(五三歳のハローワーク 暴力団員の申告 セレブって…職業? ほか)

第2夜 データとのつきあいかた(漫才『データを出せ!』
いかがわしさとおもしろさと データは自然に湧いてこない ほか)

 これまでに、パオロ・マッツァリーノさんの著作を読んだことがない人への入門篇としては、読みやすいし内容にもそこそこ意外性があり、なかなか良い本なのではないかと思います。
 逆に、『反社会学講座』を既に読んでいる人にとっては、「ちょっとコストパフォーマンスが悪い本」かもしれません。

 この本を読んでいて、印象に残ったところ。

 ところで、念のため確認しときますけど、メディアリテラシーって知ってます? あ、いえ、なにもみなさんが知ったかぶりしてると疑ってるわけではないんですが。
 解説者の説明をまとめると、イギリス生まれでカナダ育ちのしろものだそうです。要するに、メディア――テレビや新聞、雑誌、広告が伝える内容には、制作側の意図による偏りが含まれるから、鵜呑みにせず、制作者の意図をきちんと見抜いて判断しましょうね、ということなんですけど、ほら、それができたからって、どうなのよ、って感じは否めないでしょ?
 メディアリテラシーという言葉を日本で耳にするようになったのは、90年代後半のことでした。ですから、すでに10年近くが経過しておりまして、近頃では常識だとおっしゃるかたもいらっしゃいます。
 でも、ホントにそうですか? 私は「常識」といわれると余計に疑ってしまうタチなもんでして。なにしろ常識なんてものは、人の数だけあるんです。常識をひとつに絞れると思ってたら、そういうあなたが、いちばん非常識です。
 そこで、メディアリテラシーが常識かどうか、調べてみました。
 新聞などでしばしば取り上げられるので、ご存じの方も多いでしょうけど、国立国語研究所というところが、外来語定着度調査というものをやってます。16歳以上の人を対象に、いろいろな外国語の意味を知ってるか、聞いたことがあるか、使ったことがあるかを訊ねる調査です。メディアリテラシーは、2003年の調査で取り上げられていますので、その結果をお見せしましょう。

メディア・リテラシーという言葉を
 聞いたこと(目にしたこと)がある人   11.8%
 意味がわかる人               5.3%
 使ったことがある人             2.4%

 あら。やっぱり常識じゃなかったみたいですよ。逆にいえば、メディアリテラシーなんて見たことも聞いたこともないという人が9割近くもいたのです。90年代後半に登場して、このていたらく。この調査時点からすでに3年あまりの月日がたっていますが(引用者註・この本が出版されたのは2007年2月)、その間に大幅な認知率の向上があったようには思えません。
 ちなみに、「マニフェスト」という言葉は、平成15年の総選挙で民主党が使い、連日のようにマスコミの選挙報道で流されたおかげで、認知率が12%から36%に跳ね上がりました。これくらい集中的に取り上げられてブームにならないかぎり、耳慣れないカタカナ言葉を一般市民にまで浸透させるのは難しいのです。

 こんな感じで、著者が実際に目と耳と足を使って集めたデータ(著者が自身で個人個人に「直撃」したものではなく、既出の統計的な資料)を分析し、新たな切り口で紹介している本なんですよね。
 このデータにしても、メディアでは、「マニフェスト」という言葉の大幅な認知率向上が報道されることはあっても「メディア・リテラシー」という言葉が全然浸透していない、ということが伝えられることはまずありえませんが、実際は「調べればそういうデータは残っている」のです。

 しかし、ネットの世界では、「メディアリテラシー」とか、けっこうみんな当たり前のように使ってますよね。 
 その手の言葉で最近いちばん目立つのが「ライフハック」というやつで、これは日本語に訳すと「効率的な仕事のやりかた」「仕事術」というニュアンスの言葉のようです。でも、わざわざ日本人が、カタカナで「ライフハック」って書くことにそんなに意味があるのでしょうか?
 このあいだの「アドホック的」の話もそうなのですが、そういう横文字って、アクティブなネットユーザーが思っているよりもはるかに、一般には浸透していないのではないかと。仲間内での会話ではそういう言葉のほうがわかりやすい場合があるのは理解できるのですが、WEBの「専門家ではない人にも読んでもらうため」の文章内で使うには、ちょっと不親切だと思いませんか?
 専門家っていうのは、長くやっているうちに「どこまでが専門用語なのか?」というのが、往々にしてよくわからなくなりがちなものではあるのだけれども。

 この本、「素人にもわかりやすく、面白くしなければ価値がない」という主張のもとに書かれていて、僕にも耳が痛いところが多々ありました。
 まあ、専門家からすると、「とは言っても、『肝臓ってどこにあるの?』『肝臓って2つあるんじゃないの?』っていう患者さんに、わかりやすく、しかも正確にインターフェロン治療の話をするというのは至難」ではあるんですよね。1週間合宿して集中講義するわけにもいかないし。「素人」側も、最低限の知識は持っていてほしいというのは、やっぱり傲慢なのかな……


反社会学講座 (ちくま文庫)

反社会学講座 (ちくま文庫)

↑僕はこちらのほうをオススメします。

アクセスカウンター