琥珀色の戯言

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『古畑中学生』感想


 ああ、三谷幸喜はやっぱり天才だ……
 観終わって思わず拍手してしまいましたよ僕は。
 正直、構想が発表されてから放映までけっこう早かったような気がしますし、このタイミングなので、『ザ・マジックアワー』のプロモーションのための「やっつけ仕事」なのでは?と予想していたのですが、こんなによくできた脚本だとは思いませんでした。
 あんな中学生のところに「事件」なんて誰が持ち込んでくるんだよ……と視聴者に突っ込みを入れさせておいて、ちゃんとそれを逆手にとってみせるんだものなあ。
 いや、ミステリとして斬新でもなければサスペンスとして緊張感溢れるわけでもないんですけど、観終えて、素直に「観てよかったなあ」と感じるデキでした。キャストも「有名な俳優さんのほうが脇役」っぽくしてあって、いつもの「古畑」の「犯人はわかっている状態での駆け引き」とは違った、素直な「少年探偵モノ」というつくりにになっていましたし。
 話そのものがひとつの「教訓的」ではあったのだけれども、それでいて説教っぽくはないし、難しくもない。そして、このドラマを観た小中学生の多くが、『シャーロック・ホームズ』を手に取るのではないかと思うんですよね。三谷さんの誠実なところは、ホームズ作品へのオマージュをあれだけたくさん描きながら、それでいて、個々の作品そのものへの興味を失ってしまうような「ネタバレ」は、『バスビカール家の犬』が「少年と犬が絵の前で死ぬ話じゃない」という話以外には行っていないところにもあらわれています。おそらく三谷さんは、少年たちに「けっこう面白いから、『ホームズ』読んでみようよ」って、語りかけながら書いたんだろうな、この脚本。
 キャストも「全体的に小粒だし、大丈夫なの?」と不安だったのですが、古畑役の山田涼介くんも「古畑のナイーブさ」をうまく表現できていたような気がするし、僕がいちばん素晴らしいと思ったのが、向島音吉少年役のタモト清嵐くん。この子、本当に向島さんをタイムふろしきかなんかで若返らせたんじゃない?という感じでしたよ。最後の本のエピソードも、もうベタベタなんだけど、こういうのを巧く見せられるのが三谷さんの凄さなんだよなあ。最後に、ブラスバンドの演奏で例のテーマが流れてきて、それがいつのまにかいつものテーマになるところなんか、巧すぎて脱帽せざるをえなかった!
 そして、写真で向島と並んでいた古畑任三郎の笑顔には、僕も「よかったなあ」とつぶやいてしまいましたよ。
 この話で桜庭一樹さんが仰っておられるように、こういうミステリって、「ワトソン役」がとても重要なのですけど、彼の存在が『古畑中学生』を成功に導いたといっても過言ではありません。福田麻由子さんは、「どっちに転んでも救いようがない役」で、この話のなかでは、かわいそうだったんですけどね……

 実は、この『古畑中学生』って、「刑事コロンボ方式」とか「人が殺されなければならない」とか「古畑と犯人役の有名俳優との(基本的には)一騎打ち」というような「古畑ルール」を守らなくてもいい、という点において、三谷幸喜さんにとっては、けっこう楽しい仕事だったのかもしれません。「予算もそんなに使ってないし、いつもみたいに高視聴率じゃなくてもいいよね」という気楽さもあったのではないかと。三谷フリークにとっては、古畑中学生が投げつけられる「探偵気取り!」という言葉は、三谷さんが奥様によく言われているという「役者気取り!」(『ありふれた生活』というエッセイのなかで紹介されている話)から来ているのではないか、などというような想像をするのも楽しかったです。

 ところで、これは僕の勝手な想像なのですけど、番組の冒頭で久々に田村正和さんの古畑を観て、田村さんは「そろそろ『古畑』やってもいいかな……」という心境になってきているような気がしたのですよ。率直なところ、田村さんも『古畑任三郎』が終わってからの仕事って、『ラストラブ』とかで作品にも恵まれていませんし、「これなら、『古畑』やってたほうがいいかも……」と考えてもおかしくなさそうです。
 僕としては、やっぱり「本家」の新作を観たい気持ちはあるんですけどね。フジテレビだって、ドラマの映画化を考えるのであれば、『古畑任三郎』が候補に上がっていないはずはないと思いますし(できれば続編はテレビドラマのほうがいいですが)。まあ、三谷さんも、「本家」の新作となると、気軽には作れないという事情もあるでしょうね。

おまけ:タモト清嵐さん(向島音吉・中学生時代)のインタビュー(番組サイトから)