琥珀色の戯言

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自殺ドミノ ☆☆☆


内容説明
妻の自殺を親族に責められ後追い自殺する夫、親友の最期を目の当たりにしてトラウマに苦しめられる男性…。長年、自殺問題に取り組んできた著者が明かす、自殺事件に巻き込まれた人々の驚愕の証言。

とにかくひたすら「重苦しい」本です。装丁も真っ黒な「晋遊舎ブラック新書」の1冊。
なんでこんな本、読み始めてしまったんだ僕は……と思いつつも、最後まで読まずにはいられませんでした。

 もし仮に、スムーズに自殺できたとしても、自らの死の後で、遺された者が否応もなく地獄に叩き落とされることを、少しでも考えた者はいるのだろうか? 遺された近親者たちが味わう地獄の苦しみを。
 苦悩する人々の中には、第二章「割腹」の友人や、第八章「死ね」の甥っ子のように、自殺の連鎖に魅入られ、自殺念慮に囚われる者もいる。
 ……そうした重く、どす黒い、自殺の実態を知れば、自殺が美しくて楽な終わらせ方であるなどとは、決して思えないだろう。
 そう、何度でも書くが、自殺は醜く、汚らしいものである。
 そして、自殺は迷惑行為なのである。

 この本の「おわりに」の一部です。
 ここだけ読むと、「なんて著者は冷たい人なんだ、自殺者の苦しみを考えろ! みんな死にたくて死んでるわけじゃない!」と言い返したくなります。
 でも、この本を最初からずっと読んでいって、最後にこの文章に辿り着くと、「自殺は迷惑行為」だという主張に説得力を感じずにはいられないんですよね。
 自分に「責任」がない、例えば、「新築マンションで、自殺者が飛び降りた階の部屋を購入して住んでいたために資産価値が大暴落」とか、「ショッピングセンターの屋上で、偶然、見ず知らずの自殺者が飛び降りる瞬間を目の当たりにしたことがずっとトラウマに」、あるいは、「自殺した知人の車を引き取りに行くのを手伝ったばかりに、『感応』してしまって酷い鬱になってしまった」というようなケースを読むと、「本当に『不幸』なのは誰だ?」と考え込んでしまいます。「ビルから飛び降りた自殺者に押しつぶされた」なんて、いたたまれないとしか言いようがありません。

 ただ、「自殺」の多くは、「死にたいから死ぬ」というよりは、「死ななければならないという強迫観念に駆られて」のものなので、この本を読んだからといって、そう簡単に「他人の迷惑になるから自殺はやめる」ということにはならないとも思います。そもそも「自殺したら周囲に迷惑がかかる」なんていうのは、大人であれば誰でも理解していることのはず。「他人のこと」を考える余裕がないくらい追い詰められているから、「自殺」してしまうわけで。
 そういう意味では、この本には「自殺抑止効果」はほとんどないでしょうね。ほとんどの読者には、「他人の自殺の影響を受ける恐怖感」にさいなまれてしまうだけの「読んでもメリットのない本」と言えるかもしれません。それでも、僕は何かに魅入られたようにこの本を手に取り、やっぱりひたすら憂鬱な気分になってしまったのです。
 もちろん、これを読んで自殺を思いとどまってくれる人が一人でもいれば、この本の存在意義はあるのでしょうけど、「自殺」っていうのは、「こんなに迷惑なんだ」「こんなに悲惨なんだ」と語られるほど、なんとなくそちらに引き寄せられるような「負の引力」があるような気もします。。

 ダメージを受けるのは、自殺者が愛する者、自殺者を愛してくれていた者、そして偶然にも関わり合いを持たされてしまった赤の他人といった人々。自殺はそうした人々の心身や経済や、人間関係や、穏やかな日々を破壊する。その報いとして自殺者は憎まれ、恨まれることになる。

 自分自身が自殺することはなくても、「他人の自殺の影響を受ける可能性」というのは、年間3万人が自殺するこの国では、けっして「ものすごく珍しいこと」ではないのです。現実というのは、なんて救いようがないのだろう……

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